毎月、落語21を見つづける稲田先生。、稲田先生の鋭い眼力で出演者のネタと出来を評論するのだ。    円 丈

   【メニュ−】
◎稲田円丈2002年5月〜

◎落語21・2002年1月〜4月の評論
◎落語21・2001年8〜12月の評論
◎落語21・2001年5〜7月の評論

◎稲田円丈2001年1〜4月評論

 
        どれを?
   最近、髪を染めた。失恋のせいか?
    稲田和浩先生


落語21 4月17日 演目紹介

 稲田円丈の4月評論だもんね

 

爆発する面白味はなかったものの、新潟さん、つくしさん、たい平さんがそれぞれの個 性を示すネタで奮闘を見せてくれました。初登場の久蔵さんにも期待したいですね。

伸び盛りだよ〜っ!
  快楽亭ブラ汁「進路指導」

【あらすじ】
 中学の進路指導。現われる生徒は、優柔不断、マザコン、与太郎とどうしようもない奴 らに教師は頭を悩ます。ところが、教師はリストラで学校を解雇される。教師に再就職 の望みはない。「校長先生、どうか僕の進路指導をしてください」   (稲田)
【稲田評】
 ブラ汁さん: 今回はそつなく作ったということですかね。作る力はある人ですね。前 座の新作としては合格点なんですが、「落語21」となると、もう一つ飛躍がないと。滅 茶苦茶でも支離滅裂でも、はじけるような若さがないと辛いですね。形よくまとめよう と思わないで、どんどん可能性を試して欲しいです。「新作はこけた数だけ明日があ る」
【円丈一言コメント】
  ブラック師匠のお弟子さんって不思議だなあ。粒が揃ってる。うちは不揃いなんだね。ブラ汁くんも結構良いなあ。ブラック師匠!弟子をトレードしません?


つくし世界を創造中!
  川柳つくし「年齢差なんて」
【あらすじ】
33才のOLが21才のカッコいい男の子とデートをすることに。男の子は年上の女性がタイ プと言うが、いくらなんでも年齢差がありすぎる。後輩0Lが彼女にアドバイス。年齢を 25才だと誤魔化すことに。ドリフの話題は禁止、レコードじゃなくてCD、ボロが出そう になったら「お母さんから聞いた」と言う、など完全防備でデートに行くが。 (稲田)
【稲田評】
 つくしさん: 年齢差を気にするという女性ならではの視点でよく作ったネタでした。 頑張りが少しづつ実になって来ているのがわかりますね。後輩OLのアドバイスのおかし さ、33才の女の愛すべきキャラクターもよく出てました。ファッションとかのさりげな い描写もいい味付け。
  細かなギャグはもう少し整理が必要。テレビネタ、音楽ネタだけ でないゼネレーションギャップが出ればさらに面白さが増すんでしょうね。サゲの展開 は考え直したほうがいいでしょう。「駄目だこりゃ」はいいから。
【円丈一言コメント】
  つくしくん、やっと本気になってきたみたいですねえ。この2〜3年が彼女の勝負です。頑張れ!つくし。



久蔵落語模索中??
  林家
久蔵「バカの時代」
【あらすじ】
 転校生は塾の模試でいつもトップの優等生。教師は彼を学級委員にしてしまうが、頭が いいことで、逆のいじめを受ける。優等生の幼馴染みが隣のクラスにいて、そいつは馬 鹿。だが馬鹿は元は優等生だった。
  彼はこれからは教育制度が変わり、受験に強いだ けの優等生の時代は終る、これからは馬鹿の時代が来ると、努力して馬鹿になったのだ と言う。やがて、時代が大きく変革し、とうとう馬鹿の時代がやって来た。(稲田)
【稲田評】
 久蔵さん: ネタの内容はちょっと考え過ぎちゃったようですね。小説ならいいんだけ ど、落語になると後半が弱いかな。クイズもやり過ぎるとだれるし、テーマがぼやけて しまいますね。キャラクターが明るいから得ですね。日常のすべったころんだ的な漫談 風のネタなんかあうんじゃないかな。
【円丈評】
  久蔵くんって結構、ストーリーの作れるタイプの人。そう言う人はつい作りすぎてしまう。その辺、考えて作れば次回は良い物が出来そう。



2度目は馬鹿受け?
 林家彦いち 「長淵剛のように」
【あらすじ】
男は長淵剛の中毒だった。恋人と結婚するためには、中毒を治さねばならない。カウン セリングや集団治療を試みる男。そして、男は中毒を克服。恋人との結婚式の日、感涙 にむせび最後のスピーチをする男の後で「乾杯」が流れる。   (稲田)
【稲田評】
 彦いちさん: カセットの手際もそうですが、全体的に練られてなかったような気がし ますね。発想はとても面白いと思います。噺そのものをコンパクトにして、長淵のディ ーテールを集約してギャグ化すれば、案外寄席なんかでも出来るネタ(勿論、長淵を知 っ てる客が七割以上いることが条件)になるんじゃないでしょうか。
【円丈一言コメント】
  彦いちくんには良くあることですが、これを練り直した2回目のネタがヒット!良くあるんです。いやあ。プロですねえ!

 


新作の爆笑王!?
  林家たい平「新庄大活躍」
【あらすじ】
新庄選手の大活躍に触発された山形県新庄市に住む交通誘導員の男。自分も新天地で活 躍したいと東京へ行く。それまで牛や耕運機の誘導しかしたことのない男が246で渋滞 をさばくことに。しかし、彼の東京での活躍が新庄市のローカルテレビや地元新聞で紹 介され、男は新庄のスターになってゆく。 (稲田)
【稲田評】
 たい平さん: 話題が早いのと、日本で騒いでいる新庄フィーバーを、山形で交通誘導 員が騒がれてることをダブらせて笑いにもってゆく展開といい、たい平はただものでな いことを思わせます。夏くらいまでは十分使えるネタですね。
【円丈一言コメント】
たい平くんはとにかく良く受ける。先日も国立演芸場で完敗したからね。客はどうしたら笑うのか?どうサービスするのか?それを本能的に知っている。私は彼からそれを盗みた〜〜〜〜い!たい平師匠、ご立派!!

 


渾身の力投!!
  三遊亭新潟「小林カツ代」
【あらすじ】
 私小説落語だとマクラ。落語21の前日、ネタが出来ない俺は妻と口論。「フランダース の犬」を見て泣いていたことや、古典落語が出来ないから新作落語をやってるくせに地 方では「親子酒」をやってるなど辛辣な妻の言葉にいたたまれなくなった俺は家を出 る。公園でネタを考えているところへ、小林カツ代がやって来る。小林もレシピのネタ 作りに悩み公園へやって来たのだった。意気投合した二人。小林は自分の子供の頃の話 をつれづれに語る。 小林は子供の頃、金持ちのお嬢様だった。使用人で同じ年齢のフクちゃんとは友達。フ クちゃんの夢は料理人になることで、いつの日か日本橋の「たいめいけん」で修業する んだと言っていた。
  小林はフクちゃんの料理を毎日のように食べていた。そのことを知 った小林の父はフクちゃんとの仲を裂く。フクちゃんに会いたい、フクちゃんの料理が 食べたい、そんな思いから小林は屋敷に火をつける。父はさらに激怒し、フクちゃんを 屋敷から追い出してしまう。たった一匹の友達の牛と一緒にフクちゃんは雪の中をさま よう。
  そして、「たいめいけん」の前で力つき、フクちゃんと牛は、「たいめいけん」 のウィンドウに飾られたビーフカツレツのサンプルを見ながら死んでゆく。小林はフク ちゃんの志を継ぎ料理人になったのだ。 涙する俺は、この話を妻にすると、「フランダースの犬じゃない」と一笑される。
原稿 (稲田)
【稲田評】
 新潟さん: 前に円丈師が「新潟は餓鬼だ」と言ってましたが、私もそう思います。彼 は笑いに対する餓鬼ですね。これでもかこれでもかと、ほんのささいなことを笑いにも ってゆく、あの貪欲さは餓鬼の心以外に考えられない。妻の口を借りて、自分自身や新作落語に対する冷酷な愚辱をぶちまける似非マゾヒストぶりといい、幾重にもわかりやすい伏線をはって、とってつけたようなギャグを散りばめる展開といい。
  ルーベンスの マリアを「たいめいけん」のビーフカツレツに見立てるなんぞは、たいしたものです。 今回のはとくに、新潟の餓鬼の心が生み出したネタなんでしょうね。 ちなみに八百屋お七が叩くのは半鐘ではなく太鼓です。
【円丈一言コメント】
  さすがこれだけ長いあらすじの落語をやる新潟は立派!!とにかくあと一伸びして秋の真打昇進をして初代三遊亭白鳥になってもらいたい。醜いアヒルの子新潟が、実は美しい白鳥の子だったと...。なりなさい!!!


てなことで4月はこれでおしまい!!!!
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 落語21・稲田、円丈の3月評論

落語21、3月公演は大入り満員の盛況!私(円丈)久しぶりに客席で聞いた。いやいやおもしろかった。今回は稲田先生、円丈のふたりの評論で書いてみた。 円丈

初3月20日(火)大入り満員

トチッテ馬鹿受け!
    
林家 木之助 「未来落語」
【あらすじ】
2014年の近未来。携帯電話のデータで政府が国民を管理する時代になる。携帯電話でど んなデータを引き出したかで、国民の教養や嗜好を計ることで、国民総背番号を実施し ている。そんな時代に、あらゆる哲学を究め宇宙の真理を追及する男とちょっとボーッ とした男の会話。 (稲田)
【稲田評】
木之助さんは不思議な人ですね。今のところは何も言えない。頑張って欲しいもので す。
【円丈評】
 稲田先生は凄い!あの木之助くんの良く分らない落語を良くああしてもっともらしく書けるもんだね。私はズ〜〜ッと前で聞いていたけど、彼の落語はサッパリわからなかった。しかし彼は凄い男だ。忘れたり、トチル度にドッと受ける!天才だね。しかもしどろもどろでまたウケル! 芸人はかくありたい。とにかく不思議な愛嬌がある。

トチ女流つくしの船で!
    
三遊亭つくし 「大嫌い」
【あらすじ】
つくし「大嫌い」 ストックホルム・シンドロームの話。ストックホルム・シンドロームとは、父親の嫌い な性格を意識し過ぎて、恋人に父親と似た性格の男を選んでしまう女性が最近増えてき ているということらしい。携帯電話の着信をいちいちチェックする恋人に怒りを覚えた 女は友人に相談する。友人は恋人のことが好きだったため、女に恋人との別れを勧め る。女が恋人のことを好きなのではなく、それはストックホルム・シンドロームで本当 は「大嫌い」なのだと。友人の作戦は成功し、女は恋人と別れる。友人も恋人にアタッ クするが見事にふられてしまう。友人はたいして好きでもない別の男と付きあうように なる。その男は父親にうり二つの性格だった。 (稲田)
【稲田評】
つくしさんは、なんか理屈が多かったですね。色々模索しているということなのでしょ う。一つの模索が必ず成果になるはずです。
【円丈評】
 落語も講談も男の芸!発声法からマクラ、本題まで男によって作られた男向きの芸なんだ。だから女流は自分で自分の芸と噺を作り上げなければならない。彼女はその入口に立ったところ。これからが大変だ。正直、まだ時間が掛かると思う。
 しかしきっと彼女ならそれ見つけることと思う。それに向けて踏み出したつくしくんの勇気とやる気に拍手を送りたい。ガンバレ、つくし!


女流講談ミッチリ
    
講談神田昌味「魔の携帯メール」
【あらすじ】
歌を習い始めた私。歌の先生のナミコにはタツヤという恋人がいる。タツヤは音楽プロ デューサーでパン作りが趣味。私も友人もタツヤに会ったことはないが、メール交換を するようになる。実はタツヤは存在しないナミコの作り出した虚像の男だった。
【稲田評】
 昌味さんは、うーん、そもそも講談というものが、落語と違って主観で語るものでな い、たえず客観でものごとを描くものだと思うんです。勿論例外はありますが。落語が 登場人物にたえず自分が投影されているのと違い講談は「読む」という性質のために、 語り手は客観的にものごとを伝える芸能なんだと思うんです。
  まぁ、そのへんのこと は、今度「民族芸能」にでも書きますが(他に媒体がないもので、とほほ)。私のことは ともかく。で、昌味さんの場合、茜さん的な、主観で語る講談をめざしたんでしょう が、彼女が修業してきた山陽師の客観的に語る講談世界から抜け出せていないというの が現状でしょう。茜さんの場合、一早く山陽師の教えをふり捨てて落語的に主観的な講 談をめざしていたように思うんです。そのへんが趣向は似ていても形になっていない今 日の昌味さんの舞台だったと思うんです。
【円丈評】
 次に上がるんで自分の台本チェックが忙しくて聞いてなかった。しかしミッチリだったねえ。とにかく聞いてなかったもんですんません!稲田先生のそもそも講談とは?と言うことだろうけど!なんせ、聞いてなかったからねえ!!




円丈めずらしくウケル!
    
三遊亭円丈「10倍れぽーたー」
【あらすじ】
 視聴率競争が激しい6時のニュース。あるテレビ局が二倍レポーターを使うことに。体 重 が軽く、わずかな台風でも飛んでいってしまう、普通のレポーターの倍の迫力を演出す る二倍レポーターは茶の間を沸かす。
  他局は女性の四倍レポーターを使う。体重がさらに軽く体が大きいので、四倍の効果を生み出す。たちまち視聴率逆転。しかし二倍レポ ーターはさらなる秘密があった。服に付けた鉄のおもりをはずした二倍レポーターは十 倍レポーターだった。そして土石流の現場へむかう。
(稲田)
【稲田評】
 円丈さんは、こりゃ面白かった。馬鹿馬鹿しい話を真剣に語ると、こうも面白くなるも のでしょうかね。こんな馬鹿な話はない。でも、馬鹿馬鹿しくて面白い。「報道は他人 の不幸で飯を食う」という川柳だか標語だかわからないようなテーマが鋭く描かれても いました。
【円丈評】
 稲田先生お褒め頂き。ありがとうやんした。そう結構うけた。しかしこれもみんな彦いちクンのお蔭。昔やったネタではなにがおもしろかったかね?」と聞いたら即座に「10倍れぽーたーですよ!」それでやったんだけど。みんな彦いちくんのお蔭。持つべきものは、良い後輩だね。だから次はコケルから覚悟しといて!


錦ちゃん、おもしろいよ〜〜ん!
    
古今亭錦之輔「くの一忍法」
【あらすじ】
 恋人が実はくの一(女忍者)だった。忍びの里の首領の娘である恋人を巡り、首領後継者 の凄腕忍者たちと戦うことになる主人公。凄腕忍者は倒したが、恋人の父である忍び里 の首領には破れる。中国の仙峡で修業した男は首領と宇宙規模の戦いを繰り広げる。 (稲田)
【稲田評】
 錦之輔さん、四度目の登場で今日のが一番面白かったんじゃないでしょうか。もしも恋 人が忍者だったら。という馬鹿馬鹿しい発想から、次々と主人公に起こることを漫画チ ックに処理して、面白くまとめてましたね。惑星でビリヤードする落ちは無理矢理なん じゃなく、多分こういう世界が錦之輔さんが好きなんでしょうね。途中の「蜘蛛の糸」 とか、錦之輔さんの特異な趣味に走りすぎるところが大きなネタになっていかない手枷 になるとは思いますが。今の段階ではそういう趣味も大変面白く聞くことが出来ます。 そういう意味でも、落語は主観の芸能なんでしょう。
【円丈評】
 錦ちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!おもしろいよ〜〜っ。客席のうしろにいてもう笑った、笑った。すっかりただの客になってしまった。
  ただプロの目でアドバイスさせてもらうとあのナンセンス.ビジュアルギャグは、ある時ぱったりと受けなくなる可能性がある。だから今の内に別な方向の新作も今から作りだしたほうが良いねえ。でも錦ちゃんは才能があるからきっとそれをクリアして成長を続けるだろう。錦ちゃん、勉強させて頂きました。

 

 

これが彦いちの心意気
    
林家彦いち「電球太郎伝」
【あらすじ】
芸道もの。演芸好きの男がリストラされ、次の人生に選んだ仕事は芸人だった。彼は本 で読んだ電球踊りという芸を復活させ、人気者となる。寄席中継の日、後に上がるはず の柳家小さんが来ない。電球踊りしか芸のない電球太郎はもう一つの芸を引き下げ舞台 に上がる。 (稲田)
【稲田評】
 彦いちさんも、今日も開き直った楽しい高座でした。マクラの円丈師のワークショップ というのが馬鹿なおかしさ。話も、いわゆる芸道ものの基本的なストーリーをうまく聞 かせてました。ちゃんと落ちに伏線をふって、構成も緻密でよかったと思います。「芸 人はいつでも刀が抜けるように磨いていなければいけない」なんて、らしいテーマでそ れもいいじゃないですか。
【円丈評】
 いやあ、彦いちくんの今回の噺は、トリの風格まであった。いいねえ!なにか妙な感動があった。そして最後の電球で客を楽しませるプロ根性も立派。彼を見習いたい!ストーリー的にはやや荒削りの感があるけど。しかしかし、そんなことを感じさせない。すごい!とにかく彦いちくんの体を貫く硬派の血がたぎっていた。そこに感動があったと思う。素晴らしい!絶賛!!

 

 全体としてうん満足!

全体には、後半の二人の大活躍と円丈さんの爆笑でいい会だったと思います。
(稲田)客席で聞いていて笑ったからいいんじゃないかしら(円丈)


 

 落語21・2月評

落語21、2月20日公演は大入り満員の盛況だったようだ。そして各出演者はそれぞれに熱演して。では大成功なのか?私(円丈)は行かなかったので。良く分らない。問題がないのが、問題かも知れないし、問題があるのも問題、そういつも問題はある  円丈

初2月20日(火)大入り満員

出演者とネタ  あらすじ
三遊亭天どん
  「名探偵の不幸」

 
飛行機の機内でスチワーデスが叫ぶ。「お客様のなかにお医 者 様はいらっしゃいませんか」。なかなか医者が現われず緊張の中、一人の医者が現わ れ、病人に適切な処置を行う。次にハイジャック犯が現われる。「お客様の中に強い人 はいませんか」。さっきの医者が現われ、ハイジャック犯をねじ伏せる。今度は機内で 殺人事件が起こる。またさっきの医者が現われ、殺人トリックを見破り事件を解決して しまう。医者は昔、少年名探偵で名を売った人物で、今は医者になったが、まわりで事 件が四六時中起こるため、友達が出来ないなどの不幸を抱えていたのだ。
古今亭錦之輔
   「竹やぶ」
 世をはかなんだ男が自殺しようとする。実は世をはかなんだだけで な く、ただ金がないだけ。男は借金を返すため働くかと思いきや、一獲千金を夢見、かつ て札束が捨ててあった川崎の森へ、また落ちてないかと探しに行く。竹やぶを探してい ると、そこに一本光る竹が。竹を割ったら、中からかぐや姫が出て来た…。「せみの一生」
三遊亭新潟
   「ビバ! L.A」
 林家彦いちと一緒にL.Aに行った帰りの飛行機の中で、エコノミー 症 候群にかかる寸前状態で作ったネタだそうだ。結婚目前の男女、男は実は5才の時に父 親 に捨てられたことが心の傷で結婚を躊躇している。
  コンサートを見に行ったが、チケッ トを間違え、ダフ屋から買うことになった二人、ダフ屋が男に親しげに話掛けて来る。 ダフ屋は男の父親だった。「なんで俺を捨てたんだ!」と怒る男に、「子供の可愛いの は 5才までだ」などと平気で言う父親。不思議なギャグで散りばめた「父帰る」が展開す る。
柳家喬太郎
  「お富さん」
「千早振る」でデタラメな歌の意味を教わったのに懲りない男が 、 今度は流行歌「お富さん」の意味を兄貴に聞きに行く。
中入り  
 無月亭清麿
  「渋谷の首領」
 総理大臣がSPを助さん格さんに見立て、水戸黄門ごっこと称して 、 庶民の声を聞こうと、渋谷の街へ出かける。109では若い女性の快活さに目を見はり、 セ ンター街では外人に覚醒剤を売りつけられたり、公園でおやじ狩りにあいそうになる が、若者が総理をやくざの親分と間違えて急に丁寧になったので、今時の若者は礼儀正 しいと納得する。
  井の頭アーケードの焼き鳥屋では、50才代の男が自分の戦後史を語 り、「日本はもう一度戦争をしなくちゃ駄目だ」と言うのを聞く。
三遊亭小田原丈
「象牙密売人」
 「お前が犯人だ!」と踏み込んで来る男。男こそは象牙密売取 締官。かねて臭いと睨んだ判子屋に乗り込んだのだ。密売組織と取締官の攻防が始ま る。



【ここからが演者評】

 

三遊亭天どん評

  「名探偵の不幸」話がきちんと出来てきました。テーマや筋が一本通ってるし、無駄が少な く展開も軽快ですね。飛行機の乗り合いの客をうまく狂言まわしに使ったり、創作のテ クニックが備わってきたのでしょうか。キャラクターに頼らず、話として聞かせられる ネタですね。これからが期待です。

古今亭錦之輔評

 「竹やぶ」クイズ番組へのこだわりを語ったマクラは相変わらずおかしいですね。好 青年に見えて実は変な奴、というキャラクターがうまく出てます。
  というか、そういう 人なんでしょうか。今回のネタは話があっちこちに飛び過ぎて、面白さが散漫になりま した。色々語りたいことが多いのだと思いますが(一つ一つの話はそれなりに面白い)、 整理して切り捨てて、話をスリム化するのもテクニックの一つです。

三遊亭天どん評

新潟さんは、「父帰る」もの的なのが好きなんでしょうね。一つのジャンルとして、こ れからの展開が楽しみです。相変わらず、細かなギャグのおかしさは冴えてますね。ギ ャグでもって、主人公たちの性格を描き分けるテクニックは特筆すべきところでしょ う。ただ、最後の父子のやりとりが、ギャグのために同じことの繰り返しが多くなった のは、展開がだれます。もう少し整理して、これも話をスリム化させれば新しい新潟落 語になる可能性は十分あります。

柳家喬太郎評

 喬太郎さんは、これはなかなか出来ることではないでしょう。早い話が「千早振る」な んです。新作作りはじめの人がよくやるパターンものです。それこそ、円窓師なんかも 似たような新作がありますが。「お富さん」にもってゆくなんてことは、変でいいです ね。見事でした。「仇なすガーターの荒神様」なんて意味付けはたいしたものです。
  お 手軽に見えて、決してお手軽なことをしていない。「浮名横櫛」のオチなんかも奇麗に 聞かせました。先日、自身の勉強会で入れ事をせずにきっちり聞かせた「時そば」もよ かったが、こういうところで新しい喬太郎をきっちり作り出しているようです。ただ し、この話は他の人がやったら、たとえば「千早ふる」をうまく語る人がやっても決し て成功しないでしょう。喬太郎の半ば開き直った力演がこのネタをささえました。

無月亭清麿評

 清麿さんは、視点とか発想は面白いのに展開が面白くなって来ない。総理大臣を今の 森喜朗にせず、もっとステレオタイプの総理大臣にした方がいいかもしれませんね。
  渋 谷のディテールは相変わらず緻密なんですが、むしろ水戸黄門のほうで笑いをとったほ うがよかったかもしれません。あと、間で入るプロレスのギャグは一つでいいでしょ う。

三遊亭小田原丈評

 トリであがるのはそうとうプレッシャーなんでしょうかね。開き直って 普通にやればいいのにな、という印象が残りました。捜査官がいきなり「お前が犯人 だ」と入って来てから、彼が捜査官だとわかるまでのやりとりが長過ぎる。そして、判 子屋が実は本当の密売人だとわかるまでにまた展開が長い。やりかたにもよるんです が、話の方向が見えて来ないと、客は「これからどうなるんだろう」という楽しみより も、「大丈夫かな」という不安のほうが先に立ってしまいますね。
  また、話が捜査官と 密売グループのどっちの視点で描かれているのかが明確でない。つまり、ボケつっこみ がなく、捜査官と密売グループがどっちもボケなんですね。小田原丈さんらしい奇想天 外なギャグはいくつかあるものの、全体の展開は難しいところがあります。サゲは大野 桂先生が褒めてました。

 

全体として..やや物足りない!
 全体に低調というわけではないのですが、ややもの足りないというのが正直な感想でし ょうかね



 落語21
〜らくご21正月3日間〜


 えー、新作落語2000改め「落語21」という。新作と名乗らなくても、「落語とは新作落語のことだ」と言い切る姿勢は素晴しいと思います。この勢いで21世紀頑張りましょう。 まだまだ古典に依存することをよしとする、お客さん、芸人、評論家も多い。一方で、ちゃんとしたネタものの新作が寄席などでもきちんと掛けられ、客の認知を得ていることを忘れてはなりませんね。
  一つの流れが、円丈さんのここ20年の戦いで確立していったことの証明だと、アタシは思います。 さて、その「落語21」の記念すべき第一回は、正月公演で三日間。 初日はお正月気分の中、しん平、たい平、昇太が奮闘、クオリティの高い会でしたね。

  最後の円丈さんの「大須」も正月らしくない悲哀がしみじみ伝わり、今さらながらに、あの空間に存在した芸人たちの物語を伝えていました。二日目は客席はお正月気分でしたが、川柳、清麿、左談次とおなじみのネタがつづいてしまいました。三日目は、やはりもう会社がはじまっているので、お客さんには5時半開演はきつかったようです。新潟、彦いち、小田原丈の頑張り、円丈さんのネタおろしと内容は充実していました。  稲 田 和 浩


初日(3日)

出演者とネタ  あらすじ
快楽亭ブラ汁
  「にこにこ新聞勧誘員」
引っ越しをしたばかりの男と新聞勧誘員との攻防。よくいるような強引な勧誘員の次にやって来たのは、にこにこ新聞を名乗るおとぼけ勧誘員。
春風亭昇輔
  「せみの一生」
今の暗くじめじめした環境から逃れたい、駆け落ちをしようという男女がいた。数日後の再会で、心変わりをしている二人、残された時間がないとセックスを迫る男。二人は実はせみだった。
神田北陽
  「お正月なんて嫌い」
:自分がこの年末年始をどう過ごしたかを語る。
柳家小ゑん   
  「しんしん」
:寿司屋のネタが互いに言葉を交し合う、ご存じ小ゑん代表作「ぐつぐつ」の寿司バージョン。寿司たちや寿司屋の客のおやじギャグ的駄洒落が爆発。
春風亭昇太
「人生が二度あれば」
  老人が盆栽につぶやく。「人生が二度あれば」。 人生の選択を迫られた時やとても楽しかった時が自分の人生にもあった。あの時にもしもう一度帰ることが出来たら。戦争に行く自分を見送りに来てくれた女がいた、彼女の言葉は雑踏の音でかき消された。
  もし、彼女の言葉を聞いていたら自分の人生は変わっていたかもしれない。子供の頃、原っぱで遊んだ楽しい一時、あの頃へ帰りたい。母の死の時、母は自分に何か言いたかったのに、死に目に会えなかった。母は何を言いたかったのか。老人がそんな想いを語り涙した時、盆栽の精霊が彼を過去の一時へと導く。
林家しん平
「ゴジラ対メガギラス」
:自分がこれから撮るゴジラ映画の宣伝と、東宝映画「ゴジラ対メガギラス」の見所を熱く語る。
林家たい平
「落語根津ニーランド」
:客を呼ぶために、寄席をテーマパーク化。根津に作った新テーマパークは落語根津ニーランドとして若者の注目を集める。(数年前のジァンジァンお正月公演作品の再演)
三遊亭円丈
  「哀しみの大須」
大須演芸場と、そこに暮らす芸人や経営者たちの悲哀に満ちたエピソードを、大須をおどずれた円丈の言葉で綴る。

 【感想】
 ブラ汁さん、この調子で頑張って欲しい人材の一人ですね。訪問販売員の話は私も作ったことがあります(小ゑん「訪問者」)が、今日のブラ汁さんのネタは端的でたいへんよかった。リアルな勧誘員と、ふざけた「にこにこ新聞」の対比がきちんと出来ていて、笑いのポイントもしっかりしている。本当に先が楽しみですね。 昇輔さん、一万円の着物を買って着てきたというマクラが馬鹿におかしかった。
  方向的には、ややマゾヒスティックなマクラを勇気を持って語ることに意義があると思います。打ち上げで性癖を吐露しないで、そうした性癖や田舎のコンプレックスなどを高座で堂々とやれば、面白いと思うのですが。 北陽さん、作った話の面白さでなく、この人が面白い人なんでしょうね。

  考え方、行動のおかしさ、ものの見方の奇抜さがよくわかります。それにしても爆笑で時間つなぎの出来る講釈師なんてまずいないでしょうね。 小ゑんさん、おやじギャグを逆手にとって笑いへ運ぶ、底力がありますね。話としては決して面白い話ではないのでしょうが、おやじギャグからサゲへの運びも計算されていて、作り手演じ手両方の技量が充実でした。

 昇太さん、なかなかの意欲作でしょう。ぼけ老人のやんちゃな支離滅裂ぶりを楽しく拝聴しました。それでいてこの主人公がどこにでもいる(いそうな)老人のステレオタイプであるところに説得力があります。最初へ返るサゲも見事に決まっていました。

 しん平さん、ゴジラを熱く語らせたら、本当に右に出る者はないんでしょう。面白いし、今日は切れ場がきちんとしていて、ネタの時間も短くてよかったです。 たい平さん、落語内輪ネタとディズニーのパロディを見事にドッキング。もの真似と熱演で聞かせました。 円丈さん、哀しいくらいに芸人たちの風情が伝わりました。昭和初期の話じゃない…、今現実の大須がそうだということの驚きと(多少のフィクション)、随所のネーミングのおかしさは、心が洗われる泣き笑いを誘いますね。



二日目(4日)

出演者とネタ: あらすじ
三遊亭天どん
「欲望のガス」
:そのガスを吸うと欲望が心に溢れ、その欲望が叶えられないと死ぬというガスを兵器として用いようという軍関係者と貧乏な博士の
立川談生
   「さる」
 DNA検査から、「人間でなく猿だ」と宣告された男の話。男は職を失い、家族を失い、あまつさえ保健所の特殊部隊に追われ下水道に逃げ込む。そこには、人間でないと宣告された動物や虫や病原菌を名乗るレジスタンスたちが隠れ住んでいた。しかし、彼らは発見され保健所の攻撃を受ける。男は目を覚ます。すべては夢だと思った、その時…。
立川左談次
  「育児の原点」
 おなじみ。「育児の原点」というわけのわからない珍書を読む。他に「山手線占い」という本で川柳川柳と客の一人を占ってみせる。
川柳つくし
  「十年後の落語界」
 十年後、二代目川柳を継いだ自分と落語界の周辺物語。後輩の女流落語家と小田原丈兄さんのラブロマンスなど。そして、二十年後、七代目円生を継いだ自分と落語界はどうなっているか。後輩女流落語家は、四代目林家三平を継ぎ、いよいよその襲名披露となるが。
夢月亭清麿
「時の過ぎ行くままに」
 おなじみ。ハードボイルドを気取る男が横浜のバーへ。居合わせた美女との不思議な攻防。
川柳川柳
「パフィでありがとね」
:おなじみネタ

柳家喬太郎
  「ハワイの雪」
〜 三木助追悼編〜

 自作の得意ネタの後半を少し変えての口演。老人と孫娘、老人は数十年前に別れた女からの手紙を受け取る。ハワイへ移住した女の孫が不治の病で死ぬ前に老人に会いたいと言う。老人は女の孫に落語のテープを送り、孫はそれで日本語を勉強した。その礼が言いたい。
  43才という若さで死んでゆく落語好きの男のため、老人は孫娘とハワイへ渡る。前日亡くなった三木助のネタより、「死ぬなら今」「反対俥」「芝浜」などのフレーズを随所に入れて語る。

【感想】
  天どんさん、本当に高座の愚痴が少なくなりました。それだけ噺に集中している証拠でしょう。この調子で頑張って欲しい。 談生さん、よく出来たSFショートショートといった感じです。夢の二重オチもなかなか気が利いていますね。落語的なナンセンスギャグ、病原菌が知らずに海外旅行へ行こうとして予防注射で死んじゃったとか、も結構充実してました。あとは、あまり客と喧嘩しようと思わず、エログロと今日のようなネタをうまく使いわけて。 左談次さん、清麿さん、川柳さんは、いつものネタ。 つくしさん、今回は完全内輪ネタ。こういう会であれば、問題もないし、かわいく口演してました。

  喬太郎さん、多分、なんらかの形で三木助さんを語りたかったんだろうと思います。自分の得意ネタとは言え、短い時間でよくつじつまをあわせて入れごとを作ったと感心する一方で、なんか引っかかるものもあります。とまどう客、もらい泣きする客、最後までどうしてこういう展開になるのかわからなかった客、いろいろだったと思います。最後におじぎした喬太郎さんが顔をあげずに去っていったのが印象的でした。

三日目(5日)

出演者とネタ: あらすじ
快楽亭ブラ談次
    「IT革命」
 インターネットにはまり、勝手に指が動いてキーを叩いてしまう男の話。(昨年12月、途中絶句したネタで再チャレンジ)
えびー太(仮)
「雪山」
 雪山ロケで遭難しかかった有名俳優、たどり着いた山小屋は冷房をきかせている変な所、俳優は山小屋の男に法外な金を要求され…。実はどっきりカメラだった。
古今亭錦之輔
「怪盗X」
 怪盗Xと探偵との漫画チックな攻防。
三遊亭小田原丈
「カフカ的虚無僧」
 女子高生が朝起きたら虚無僧になっていた。恋人も山伏になっていた。二人はモアイ像の前で待ち合わせ、お互いの奇妙な姿に驚く。(応用落語の再演)
三遊亭新潟
  「ある愛の詩」
 小劇場演劇のスター俳優と、そのおっかけのストーカー的な少女との、珍妙で恐ろしい一夜の攻防。(落語ジャンクション等の再演)
林家彦いち
「リングアナ体験談」
 リングアナをやった時の体験談に、その時に出会った格闘家の奇妙な行動をウォッチング。常識と格闘家とのずれがおかしい。彦いちのドキュメンタリーネタとして確立している一席。
立川談之助
「談志が死んだ」
おなじみ。立川流のあれこれ話。
三遊亭円丈
   「ふりむけば」
 円丈が土手でふりむくと、そこには40代半ばの自分が。さらにふりむくと20代後半の反骨精神の固まりで自信家の自分が、そして子供の頃の自分が…。円丈が今、さまざまな自分と向き合った時…。ネタおろし。


【感想】

 ブラ談次さん、無理して作らないほうがいいかもしれません。ストーリーを作る前に、感じたことを喋る稽古をしたほうがいいんじゃないかな。ストーリーづくり、構成や駄洒落よりも、当人が何を語りたいかがないと新作落語にはならないと思います。 えびー太(仮)さん、ドサなマクラですねー。それが味でもありますか? 勢いがあって、話にはずみがあるから、これからが楽しみでしょう。歌えるし、体の動きが敏捷なのがよくわかります。変に客にこびず堂々と自分の特長を活かした落語で勝負して欲しいな。
  錦之輔さん、今日のネタは子供の言葉遊びみたいなネタでしたね。楽しいと情けないのぎりぎりの境界線のところとでも言いますか。馬鹿馬鹿しさはあるし、寄席とかでは受けるとは思います。色々なタイプのネタが作れる人だと思うので、また面白いネタを聞かせて欲しいですね。

  小田原丈さん、なんだかわけのわからない話だけど、いろいろ練って、わけのわからないところを変な説得力で聞かせたといったところでしょうか。化ける日も近いか。 新潟さん、前にこのネタをやった時に、「演劇を誤解している」と清水宏さんに言われたとか。そんなようなネタですが、馬鹿馬鹿しさは究めつけでしょう。ストーカー少女の破天荒は独壇場。 彦いちさん、独自のドキュメント落語を確立したといったところでしょうか。目のつけどころの面白さと、確信をもって訴え掛ける気迫が充実してきています。 談之助さんはいつものネタ。

  円丈さんは、またまた問題提議、客席にいろいろなことを問いかけてくれました。いや、時々、アタシも自分をふりかえるんですよ。でもふりかえると空しくなる。40年生きて来て、あの時なにしてたんだ、みたいなことの繰り返しですよ。円丈さんはそうでない、ちょっと挫折したり、希望に燃えてたり、夢がいっぱいだったり、そういう自分をふりかえる。みつめ直して、さらなる未来へ目を向けている、そんな円丈落語の強いメッセージを感じました。 ちょっと長くなりましたが、本年もよろしくお願い申し上げます。


 

9月のネタと感想

あらすじ、感想ともに稲田先生!!
快楽亭ブラ汁 「頑固なラーメン屋」
【あらすじ】ブラ談次代演。閑古鳥の鳴いているラーメン屋。主人はテレビのグルメ番組の頑固なラーメン屋を見て、自分も頑固で客を怒鳴ったり横柄な態度をとれば人気ラーメン屋になれると考える。オチは頑固と閑古鳥の地口。

【感想】
 ブラ汁さんはうまいですね。古典の口調と歯切れがいいです。噺も発想を簡潔にまとめていて、今後が楽しみですね。ラーメン屋がこだわりの一品と言って、ラーメンでなしに「ハンバーグ定食」と言うあたりの意外性の面白さはよく出てました。

【円丈一言】ブラ汁くんのネタは、おおむね評判が良かったみたい!

橘家亀蔵 「お別れ」
【あらすじ】「子別れ」の続編だと言う。折角一緒に暮らすことになった「子別れ」の父親が死ぬ。通夜に、落語の登場人物、与太郎や狸、お菊の幽霊が次々と訪れる。

【感想】
亀蔵さんはちょっと難しいですね。無理に作って、変な所へいっちゃったというところでしょうか。キャラクターの面白さがあるだけにもったいないですね。亀蔵さんはゼロから作るよりも、古典のパロディとか(今回みたいに出鱈目でなく)、あるいは擬古典もののすでにある新作をやったらどうでしょうか。新潟さんの作品(「姫泥」とか「河童の恩返し」)でもいいでしょうし。

【円丈一言】亀蔵くんが、すっかり弱気になって新作から足を洗うとか、いやいや、そんなことじゃ困るなあ。
 さあ、元気を出してもう一度。新作に失敗はつきもの。笑わせるまで2〜3年は当たり前!そんな2回ポッチであきらめるなんてプロか?男ならやってみい!わしは亀蔵くんに期待してる。

三遊亭小田原丈 「薄めの地下鉄」
【あらすじ】有楽町線が突然営団地下鉄から独立する。有楽町線は独立国家の宣言をし、有楽町線民主主義人民共和国となり、有楽町線に乗るにはパスポートが必要となり、駅員による入国検査を受ける。駅員に逆らった乗客は容赦なく射殺されるというありさま。
 有楽町線は南北線を支配下に置き、南北線駅員を営団成増駅に左遷したり、女の駅員をメトロアイドルにしたりと過酷な目にあわせる。
 その時、半蔵門線が(半蔵だから、この線の駅員は忍者)営団すべての駅に奇襲攻撃、煙幕をはり乗っ取ってしまい、営団を征服する。しかし、それは忍術によるまやかしとわかり、半蔵門線は煙幕を用いたことを非難される。地下鉄は全線禁煙だから。

【感想】
 小田原丈さんは今回も奮闘でした。ただどうなんでしょう。有楽町線が独立するという、発想は面白いけど現実感のまるでない噺。これは新作作る上での問題の一つでしょうね。現実感のなさは多分演技力でカバー出来るんじゃないかと思うんですが、これは小田原丈さんの精進にかかっているんでしょうね。
 あと、地下鉄ネタなら、たとえば円丈師の「悲しみは埼玉に向けて」が東武線をこれでもかと語るように、地下鉄のディテールにこだわって欲しいと思います。地下鉄の穴のような話はいくらも面白いネタがころがっているはずで(マクラで2、3はありましたがちょっと弱いですね)、そこである程度笑いをとれば、無理な話も落語ならではの説得力で運べるんじゃないかと思うのですが。

【円丈一言】今年に入り、急成長した小田原丈!間違いない。

快楽亭ブラック 「秀次郎の桃太郎」

【あらすじ】自らの子育て体験をマクラに古典落語「桃太郎」に入る。「桃太郎なんてつまらない、父ちゃんが子供の頃面白かった話をしてくれ」と言われ、父親は「鉄人28号」の話をする。子供は父親に「鉄人28号」は実は北朝鮮の話だと説明、正太郎少年こそが少年時代の金正日をモデルにしていると言い、悪者とはすなわち日本のことだと語る。父親は聞いているうちに寝てしまう。「父ちゃん、父ちゃん…、あれ寝ちまった、日本人は罪の意識がない....」

【感想】
ブラックさんはいつものごとく古典をうまく利用した危ないネタで安定した笑いをとりました。ネタの内容はちょっと玄人好みかもしれませんが、マクラの子育ての話が自然な笑いで面白かった。


三遊亭新潟 「演歌の花道」
【あらすじ】かつてスターだったが今は売れない演歌歌手とそのマネージャーの話。マネージャーは歌手にテレビで歌わせるために、ワイヤーで吊るされライオンのオリにおろされる役(テレビ局の企画番組で)を買って出るが、別の演歌歌手の意地悪にあい、ぎりぎりのところでストップするはずのワイヤーがライオンのオリの中へ…。

【感想】
 新潟さんは作った噺の面白さとでも言いましょうか。「演歌歌手はみんなキングレコード専属」と、誤解だかギャグだかわからないフレーズのおかしさはいいですね。演歌歌手=マイナーで自尊心が強く、過去の栄光を捨てきれない、マネージャー=献身的、イメージのキャラクターで好き勝手に遊んでいるところが新潟らしさがあふれていました。ただ、アタシはあんまり好きではありませんが。地口のサゲは新潟さんが妙に小利口に立ち回っているみたいなところが見えますね。

【円丈一言】ここんところ、良いネタが続いていたが、今回はまあ、平均的と言うのが大体の見方のようだね。

夢月亭清麿 「散歩する東京人」
【あらすじ】「散歩する東京人」という雑誌が、世界中がオリンピックに熱狂している中、寄席やマイナーな場所を散歩する人たちを取材。と、一人のサラリーマン風の中年男といつも会っていることに気付く。編集長は「東京かわら版」を手に男の行動パターンを分析、彼がどの寄席や落語会に現われるかを次々予想、とうとう取材を試み、オリンピックに背をむけて毎日落語を聞いて歩く男の真意に迫る。

【感想】
清麿さんは、今回はちょっと辛いものがありましたね。東京かわら版を使うあたりは、落語ファン受けを狙ったのでしょうが。むしろそんな小さな受けどころは無視して、清麿流の本格的な東京論、東京マイナースポットガイドを押し出して聞かせて欲しいと思うのですが。落語会まわりをしていた男が実はただテレビが壊れてたというのも、ちょっと変ですね。あと、登場人物の佐藤友美さんはあんなしゃべり方じゃないですね

【円丈一言】清麿氏本人の弁では「稲田氏の見方は浅い!」とのこと。えっ、お前の見方は?ええ、そうね。まあ、見てなかったもんで..。おあとがよろしいようで!!


11月のネタと感想

あらすじ、感想ともに稲田先生!!全体に面白かったですね。色々なタイプの新作、色々な作り方の新作が聞くことが出来 た点でもたいへん珍しくよかったでしょう。

三遊亭天どん

「平成寄席維新」

【あらすじ】…寄席に外人の団体客が来る。この外人がやたらと寄席に詳 しく、呼び込みの兄ちゃんを煙に巻く。実はこの外人の団体は国連の調査員。日本経済 停滞の原因が寄席にあると決めつけ、寄席改革を通達する。

【感想】天どんさんは、運びがうまくなりましたね。途中こぼれる愚痴も少なくなったし、この 調子で頑張ってもらいたいですね。ネタは今日のネタは寄席内輪ネタなんですが、寄席 内輪ネタで笑いを取る手法として、こういう噺を作ったというのなら意味はあるでしょ う。寄席内輪ネタがいけないとは、私は思いませんし。そういう笑いもあっていいんじ ゃないでしょうか。
  


三遊亭新潟 「歌舞伎町飲み逃げ物語」
【あらすじ】
  貧乏な学生二人がアパートで焼酎を飲んでいる。話 は、合コンがしてみたい、キャバクラへ行きたい、だけど金がないという話。そこへ同 じ大学へ通う中国人留学生が来る。バイト先の居酒屋でサラリーマン風の客が喧嘩のふ りをし、表へ出ろ! と出たままいなくなるという飲み逃げをして、その責任をとらされ た、日本人は酷いと愚痴を言う。三人は自分たちも同じ手で飲み逃げをして日頃のうさ を晴らそうと歌舞伎町へ行く。
  貧乏学生たちはキャバクラへ行こうと言うのを、どうせ 飲み逃げするんだと、中国人留学生は高級クラブへ二人を連れて行く。一行の不思議な 言動や着ているものから(いい服を着て来いとリーダー格の貧乏人に言われ、留学生は 中 国服、貧乏学生は紋付き、言った当人も一着しか持っていない黒の背広)、中国人はチ ャ イニーズマフィア、貧乏学生は山口組の若親分とその用心棒に間違われる。やがて、中 国人と貧乏人がささいなことから口論となり…。

【感想】
 新潟さんは、面白かったです。「突き落とし」「付き馬」がベースになって、新潟流の 貧乏学生たちの珍場面のおかしさは際立ちますね。他にも、「羽織の遊び」とか、古典 の手法をうまく笑いにつなげているあたり、実力発揮といったところでしょうか。伏線 を次々にはりめぐらし、これでもかと笑いにつなげるところも充実ではあります。新潟 さんの噺作り、笑いの構築力は高く評価していいでしょう。だけど、ちょっと小利口に なり過ぎてるかなと、私は思うんですがね。
  伏線のはり方はうまいんですが、伏線のた めのとってつけた伏線とでも言いましょうか。たとえば、中国人の服の猫の刺繍が、お 母さんが刺繍がへたで白狐に見えたというギャグから、中国マフィアの白狐会と間違わ れたとか。こういうことを言っては失礼なのかもしれませんがね。貧乏なら貧乏、留学 生なら留学生の心の叫びが欲しいじゃないですか。荒削りでも、そういう新潟が聞きた い気がしますがね。笑いのボルテージは高いです。創作面でも演じ手としても。こうい う作り方をするのも、彼の一つの通過点というのなら、それはそれでいいんでしょう が。
  


夢月亭清麿 「初台時計屋物語」

【あらすじ】
  初台の時計屋。すっかり閑古鳥が鳴いているこの店も、今 なら1億くらいで売れる。女房は店を売って郊外で別の商売をしようと言うが、親の代 か らの時計屋で時計職人としての腕にほこりを持っている夫はふんぎりがつかない。 夫が店番をしていると、客が来る。最初の客は30年前、時計屋の父に修理してもらった 時計が最近少し狂うので修理して欲しいと言う。30年狂わなかった父の腕に今さらに関 心する時計屋。客と世間話をしていると、客は哲学が趣味で、自分の哲学について語 る。

 そして、自分だけの時間、「私時間」を持ちたいと言い、時計を日に4分づつ狂う よ うに調整して欲しいと言い出す。「世間より日に4分違う、それが私の時間になる、素 晴 しいとは思いませんか」。次の客は女、子供の頃の想い出の品、マリオンにあるような バルコニーが飛び出す時計の小さいものが欲しいと言う。値段はかかるが、取り寄せて 細工をして女の欲しい時計を作ることを約束する時計屋。女と世間話をするに、女は風 俗嬢。45分が40分になる時計が欲しいと言う。そのほうが稼げるからだ。 時計屋は二人の客から、新しい商売を思いつく。客の欲する時間を刻む時計を作ってあ げる時間プロデューサーになろうと考える。時計屋は店を売って、1億を資金に時間プ ロ デュースの事業を始めると、その話を家族にする。時計屋の息子は「お父さんのやろう としていることは時計を作るのではなくメトロノームを作るだけだ」とたしなめる。 息子は人のいい父親に新しい商売なんか出来ないと思っての忠告だった。事業に失敗す れば1億の金はなくなる。このまま時計屋でいれば、少なくとも1億の土地は自分のもの になるからだ。

【感想】
 
清麿さんは、いつもながらの内容の充実がありました。初台のうらぶれた時計屋を舞台 にした、その発想の部分でこの噺は成り立っていますね。淡々とした清麿流の語りもこ の噺にはあってました。哲学の件なんかはもっと整理してもいいし、サゲはやや弱いで すがね。

 


川柳川柳 「新スポーツあれこれ」
【あらすじ】…オリンピックの珍競技の漫談から、高校野球の入場行 進曲をおちょくる。

【感想】川柳さんは、元気にいつものネタでした。

 


林家彦いち 「激走!! ポイント変換」
【あらすじ】…世田谷区に住む夫婦、旅行から帰り家のドアを開 け ると、家の中に線路が敷かれている。なんと留守中に運動していた新鉄道が敷かれ、そ れが家の中を勝手に通っていたのだ。加えて日照権問題で争っていたマンションも勝手 に建っていた。文句を言うと、このマンションは稼働式だから日照権は大丈夫と言われ る。なるほど、凄い音を建ててマンションは動き出す。やがてマンションは世田谷線の 線路を走り出す。そして小田急線、京王線、JRから新幹線へと次々に線路を切り替えて 走って行く。

【感想】彦いちさんは、久々のナンセンス…彦いち流滅茶苦茶ネタで面白かったです。余計な設 定や導入の会話はいりませんね。マンションが線路に乗って走り回る滅茶苦茶をもっと 徹底して勢いでやって欲しいです。無理な噺はわかってるんですから。路線周辺のディ テールや、その路線を走ることでの主人公たちの狼狽ぶりを描けば、馬鹿馬鹿しいけど 厚みのある噺になるでしょう。

 


柳家喬太郎 「ねずみ穴後日談」
【あらすじ】…「ねずみ穴」のところどころを演じながら物語は進行す る新らしいストーリー展開で聞かせる。「ねずみ穴」の兄弟の子孫、兄の子孫(松吉)は 風俗店などを三軒持つ実業家、弟の子孫(竹次郎)は学校経営をしている。竹次郎の息子 は手のつけられない不良少年で、竹次郎は困りはてている。松吉は風俗店経営者という コンプレックスがある。竹次郎の学校が火事で焼ける。保険金が入るが、息子はこれを 持ち逃げしようと竹次郎を殴るほど。夢ではなく途方に暮れる竹次郎。保険金は実は保 険金などではなく、松吉が店の一軒を売って作ってくれたものだった。売った店が火事 になったためそのことがわかり、竹次郎は松吉の思いやりに感謝する。これを見ていた 息子も心を改め、相撲取りになる。夢は土俵の疲れだ。

【感想】
 
喬太郎さんは、「ねずみ穴」で遊んだというところでしょうか。新作だけの噺としては 弱いし、未完な部分もありますが、古典の「ねずみ穴」のシーンと新作のシーンのつな ぎ方が実に面白く楽しめました。一つ難を言えば、古典の「ねずみ穴」を知らない人は ちっとも面白くなかったかもしれませんね。
 それなりの伏線や説明は加えての演じ方は してましたが、やはり今回の新作のストーリーの部分だけでは弱いというのはありまし たね。もう少し整理すればテレビドラマに出来るかもしれないなと、シーンのつなぎ方 をうまく見せれば。そういう面白さは斬新でよかったですね。遊びであって、遊びの中 に一つの試みを実践している、喬太郎の底力を見せてました。


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