「落語家のご祝儀経済学」

 
21世紀は経済の時代なのだ。噺家に取って経済とは縁遠い存在のようだがご祝儀はごく身近なんだ。そこで今回は真打昇進におけるご祝儀の収支の問題点を取り上げた。とにかくお金に関して円丈は意外に現実的なのだ。なんせ名古屋生まれ、決してミエを張らない、借金しないと言う男だからね。 三遊亭円丈

なぜ今の真打昇進で収支決算が赤字になるのか問題
  私円丈は1978年(昭和53年春)にぬう生から円丈で柳亭金車さんと2人で一緒に真打になり、パーティも一緒。寄席の興行は昼夜の分かれて各自50日間トリを務めた。元々、ヨイショのできない芸人。あの時真打昇進パーティで呼んだお客さんはたったの27人!少ない。ところが今の真打披露パーティではお客さんだけでも2〜300人は呼んでいる。エライもんだ。今の私でもそんなに集めるのは無理だよ。
  ところがそんなに呼んで祝儀を集めても40日間の寄席真打披露興行が終わる。かなりの真打は収支が赤字だと言う。一方、27人しか集めなかった円丈は、披露興行が終わって見たら数十万円のプラスになっていた。な、なんで?なぜ私はプラスになって。今の真打は赤字になることが多いのか?その原因を収支を見ながら探って行こう。


【これが円丈、柳亭金車の2人の昇進パーティ】
円丈、金車の披露パーティ(1978年3月:帝国ホテルにて)
 協会の幹部と一緒にひな壇でただ偉そうに座ってただけ。今みたいにぺこぺこ挨拶に行かないし、余興もなんにもなし!みやげもなし。金車さんが、細かい事をしてくれたので、ホントに楽だったねえ。 (右から林家彦六、三遊亭円生、円丈、金車、小さん、円蔵、馬楽、金馬。協会幹部の各師匠方。この2ヶ月後に落語協会が分裂をした。それを本にしたのが円丈の「御乱心」だった)



真打披露パーティ収支報告の今昔
  円丈の場合 今の真打
場所 (昭和53年春)帝国ホテルでパーティ) 東京會舘でやることが多い
祝儀 祝儀1万円〜 2万円〜
お返し 扇子手拭、口上書きのみ 扇子手拭、口上書きのみ。他1・2点
余興 一切なし! お獅子、バンドなどいろいろ
収支 パーティ 百数十万円の黒字 一応黒字らしい

 

なんと昔の方が必要経費が少ない
 ◎昔はパーティのお返しはなし。
扇子手拭口上書きのみ。その当時も「やはりなんかつけないといけないのでは?」と言う意見もあったが、「いいんだ。扇子と手拭をつけるんだから!」 今は必ずその他にお菓子とか、1.2点つける。それだけ出費が増える。
 ◎昔は余興は一切なし!
  53年当時、パーティは実にアッサリしたもの。噺家の挨拶があって落語協会の会長挨拶でカンパイ!あとなんいもなし。来たお客さんは「なんかアッサリしてるな!」と思ったがなし!
  ところが今、最低でも獅子舞、大神楽などの余興がはいる。しかしいくら同業者でもただではしてくれない。結構お金がかかる。
  ◎つまり必要経費のUP
 これが、真打昇進披露のパーティの収支を圧迫してる



ご祝儀の額・・昔の方がはるかに多い
 ◎昔はこうだ
 しかも人数では今の方がはるかに多い。しかし昔の方が、ドカーンと祝儀を持ってくる人がいた。あの当時お客さんの中で100万円の祝儀は、それほど珍しい額ではなかった。まあ客のいない私の場合はそんな人はいなかった。一番多い人の最高が50万円だね!その他、ボチボチだね。
 あと結構落語界のことを知ってて2万じゃ悪いから祝儀は3万円にしようとか、取り決めてくれたりもした。それにあの当時はまだ「真打って凄い」と言う意識があったと思う。それでなんだかんだで百数十万円のプラスになった。この金を元に寄席50日間を廻る資金になる。

  ◎今はこうだ
  今は呼ぶ人数は増えたが、とてつなく祝儀を持ってくるお客さんが激減。残念だね。大体2万円ぐらいが多いようだが、実はそれではチャラなんだ。せめて3万頂けると噺家も少し楽になる。祝儀の額が平均化して。しかもお返し品や、余興の出演料などの必要経費の増加があって、見た目は派手になったけど儲からない披露パーティになってしまう。でも今もパーティでは一応黒字にはなってるようだね。早い話が、昔は手抜きパーティだけど祝儀は多く。今は良心的なパーティなだけに昔より苦しくなっている。これが実情のようだ。

 ◎そこで提案
 真打昇進パーティで儲けようと思ったらもうどっかの空き地やる。招待客は各自食べ物持参で祝儀を持ってくる。これなら儲かるね。えっ、そんな空き地でやるパーティなんか誰が行くか?まあ、そりゃあそうだね。


真打昇進寄席興行の収支
  円丈の場合(昭和53年春) 今の真打
50日間の祝儀 初日、中、楽日の前座、お囃子への祝儀2千円? 今も殆ど同じ?
弁当 初日、全ての寄席出演者に弁当。200個。値段6〜700円程度 千円前後、個数同じ
打ち上げ費用 1万〜2万円 5万円〜(1回) 10万円以上(1回)
各師匠への御礼 口上をして頂いた師匠への御礼!酒1本程度のもの10日ごとに 大体、同じか、やや高い
楽屋の食べ物 酒と簡単なおつまみなど 酒、ビール。その他結構、凝ったつまみが置かれることが多い

 

今の方がはるかに出費が多くなった

◎昔の寄席興行の場合
  以前は50日の最初の初日に全ての寄席の出演者に弁当を出す。600円程度だった。それから祝儀、各師匠の御礼はそれほど今とは変わってない。違うのが、50日の間、楽屋に酒とつまみを切らさず置くが、ピーナッツ程度の乾きものだった。それと10日間の内、打上げで飲みにいったが、自分より下の手伝ってくれた人とだから4.5人どまり、大したところに行かないからまた安かった。昔はハネまで残っていても先輩や、師匠連は打ち上げに参加することなく。そそくさと帰った。
◎今の寄席興行の場合
 昔と変わったのは、楽屋に置く飲み物が、ビール、日本酒、ウイスキーとつまみも少し凝ったものになってきている。そして一番ツライのが打ち上げ代。
  昔の打ち上げと違い。何時の頃からか、師匠連中や他の出演者も誘うようになった。 また誘われる師匠方も断ると悪いからと付き合いで打ち上げに参加する。しかもそこに一門の兄弟弟子もドカンと加わる。
◎今の打ち上げ人数はなんと2〜30人!
 これは大変な人数だね。昔、4.5人で打ち上げしてた頃とは金額が違うし。師匠連中がいるからそんなセコイ店には連れて行けない。10万円程度は直ぐ吹っ飛んでしまう。しかも10日間の内、2〜3回は行く、10回以上は打ち上げする訳だね。
  これじゃあ、赤字になるわなあ。その結果、真打になって借金だけ残ったなんてことにもなる。やはり今後、真打の打ち上げは昔のように下の者だけ行くように戻さないと赤字収支になるね。
◎一番高い打ち上げ費用は?
 ある真打の時だが高級な焼肉屋で六十数万円使ったのは聞いたことがある。私なら店の前で舌を噛んで死ぬね!
◎そこで提案
 もうトリを取って終わったらギャ〜〜〜ッ!とそのまんま客席から逃げる。えっ、それじゃ、仲間から評判悪くなるだろ?当然だよ。私だって悪く言うね。「あんなケチは芸人を続ける資格ない」と言いふらすね。でも評判をとるか、金をとるか、どっちかだね。



おまけです!!

前座時代の収入とご祝儀、今昔
  円丈前座時代(昭和40年代前半) 今の前座
寄席の収入 1日100円(毎年50円昇給250円で二ツ目に昇進) 3千円(昇給?) 前座のギャラ 落語会手伝い500円。
他の仕事 地方で2〜3千円! 内容により5千円〜3万円
物価 JR運賃10円 Jr運賃130円
お年玉 50〜500円(1人につき) 1000〜5000円(1人につき)数十万円
総合計 数万円 総合計30万円?
二つ目昇進の祝儀 各先輩より1〜2千円(計十万円程度) 5千円〜 (計数十万円)

 

今と昔、どっちの前座が楽なの?

 しかし35年前の前座と今の前座。どっちの生活が楽なのか?当時100円と今3000円。どっちが楽か?こりゃあ.難しいねえ。でも今の3千円の方が上のような感じだね。
 前座になって最初に千葉の仕事で2千円貰った時はビックリした。うれしかったなあ。あの頃は5千円持ってるとスンゴイ金持ちって感じだった。
 新宿の小便横丁で野菜の天丼が55円だったかな。いや、良く覚えてないが100円以下だったことだけは確かだね。
  西新宿で 3畳のアパートの家賃が3700円だったと思う。あの頃、10日に一度はマージャンをしたが、3000円も負けるとガックリして2.3日立ち上がれなかったね。もう一万円なんて途方もない金額だった。だから前座から二ツ目に昇進して先輩たちから貰った祝儀の合計数万円になった時はもう天にも昇る気持ちだったね。
  一体、今の前座とどちらが生活が楽なのか?これほど金額が違うと難しくて分からない。でも我々の前座の方が金の有り難味だけは身に染みて知っていたことだけは確かだね。


経済シリーズ。次回は全然未定。多少反応があれば、2回目を企画するけど。一体どうなるのか?ワカラン・

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