『キレイ町』(:『喫煙者』) 三遊亭円丈 06/10/16
【注】
06年10月の無限落語のネタがこれをやるが、うけなくて、ド〜ッと落ち込んだ。
【本 編】
ある男が念願の田舎ぐらしをと、とある小さな町に引越してきました。
職員「これで移転手続きは全て完了いたしました」
男 「うれしいですね。やっと田舎暮らしの夢が叶いました」
職員「この町は去年合併して出来た新しい町で。きれいな空気、きれいな水、クリ−ンが売り物で名前もキレイ町です。この町にようこそ!」
男「はい、ありがとうございます」
職員「ハハハハッ、ええとそれから、まさか、そんなことないでしょうけど、ひとつだけお聞きしますが・・?いやいやいや、ないですね?」
男 「なんですか、それは?」
職員「いやいや、そんなことある訳ないんですよ。でしょ?でしょ?でしょ?」
男 「・・だからなんなんですか?」
職員「だから・・ニコバカじゃないですよね。いやいや、ごめんなさい」
男 「なんですか?そのニコバカって?」
職員「いえいえ、知らないんじゃ違いますよ。今時、いくらなんでもニコバカなんて奴はいませんよね」
男 「いえ、なんです。そのニコバカって?」
職員「いえ別に・・一応、念のためにお聞きしますが、タバコは吸いませんよね」
男 「ああ、タバコ?ハイ、吸います」
職員「ええ、吸う?いえいえ、いえいえ落ち着いて・アワワ、お、お、落ち着いて」
男 「あなたが落ち着いて下さいよ」
職員「いえ、だから、つい興奮してタバコを吸うと言ってるだけでしょ?そうでしょ?」
男 「いえ、タバコ吸います」
職員「吸う?ウソでしょ。ホントに?・・・でもそのタバコって火を付けないヤツでしょ?」
男 「いえ、火を付けます」
職員 「ゲッ、火を付ける?・・・だけど煙りは出ない奴?」
男 「出るに決まってるでしょ?」
職員「ああ、火をつけると煙りがでる・・・そうか、蚊取り線香を毎日吸うんですか?」
男 「だれが毎日蚊取線香吸うんですか?煙りの出るタバコです」
職員「煙りが出るって・・ホントに?あなた、知らなかったんですか?うちはキレイ町でクリ−ンが売りなんです。去年新しい町長の誕生で完全禁煙町条例が施行されて、自宅でも吸えないんですよ。ホントに喫煙するんですか?」
男 「吸いますよ」
職員「えっ、今、うちの町は喫煙者ゼロですよ。ゼロ!これを聞いたら吸えないでしょ?」
男 「いえ、吸います」
職員「吸う?こりゃ大変だぞ。今、喫煙防止課の者と代わります。喫煙取り締まり官の横山さん、今度、この町に引越してコイツ、タバコを吸います」
男「なんだい、コイツって、急に対応が変ったぞ」
横山「こらこらこらあ、おい、お前がニコチンバカか!」
男 「なんです?あのニコバカってニコチンバカの略だったんですか?」
横山「当たり前だろ。このニコバカのW!Wだからニコバカじゃなくて4コバカ!」
男 「 4コバカ、いえ、愛煙家と呼んでください」
横山「なにが愛煙家だ。煙りを愛してる奴なんているか?第一今時、愛煙家だの、愛妻家なんて既に死語なんだ。いいか、この喫煙取締官の横山がきたからには、もう二度とタバコは吸わせない、覚悟しとけ。これから直ぐに取り調べるから、おい、その床ゴザ敷いて土下座しろ」
男 「なんで土下座しなくちゃいけないですか?」
横山「じゃ、椅子に座れ。早速、喫煙調書を取る。さあ、今まで散々吸ったタバコ悪事の数々を洗いざらい吐いちまえ」
男 「いえ、そんな悪いことしてませんよ」
横山「うるさい。この町じゃ、喫煙者は人間じゃない。動くニコチン核兵器だ」
男 「ニコチン核兵器?」
横山「それともうひとつ忠告をしておく。この町では絶対にタバコ・ギャグを言うな!」
男 「えっ、タバコ・ギャグってますと?」
横山「だから、“タバコを吸う人って、ヤーニ”とか、“喫煙する曜日は?もくもく”とか、そんなこと言ってみろ。穴掘って埋めるぞ」
男 「穴掘って埋める?恐いな」
横山「さあ、取り調べを始めるぞ。おい、いくつからタバコを吸い始めた?」
男 「ええ、 16です」
横山「 16だと・・ふん、それから転落の人生が始まったんだな」
男 「別に転落なんかしてません」
横山「やかましい。それで吸うタバコの銘柄は?なにを吸う?」
男 「ハイ、ショート・ホープ」
横山「なに?ニコチンの一番強いあのショートホープだ?わっ、く、く、くるしい」
男 「どうしたんですか?一体?」
横山「ぐああ、痒い、痒い、おれはなあ。ショートホープ・アトピーなんだ!」
男 「えっ、ショートホープでアトピーになるんですか?」
横山「そうだ。この人殺し〜っ」
男 「いえ、人殺しって、私はただタバコの銘柄を言っただけですよ」
横山「いいか、最近の喫煙研究によればタバコの銘柄を聞いただけでも健康被害が出ることが分かったんだ。だからな。マイルドセブンと聞くとマイルドな肺がんになる」
男 「ホントですか?」
横山「そう、キャスターだとキャスター尿道結石になって、俺の友達なんかキャメルと聞いたらラクダになったんだ。それで鳥取砂丘に売られて毎日、観光客を乗せてるんだ」
男 「まじっすか?」
横山「・・・でそれで日に何本吸うんだよ?」
男 「ええ、大体 30本で」
横山「なに? 30本だと〜っ?10m離れろ。いいか、俺の顔に息なんか噴き掛けるな。そこがアザになる。ツバキなんか飛ばしてみろ。そこから腐って死ぬ」
男 「そんな大袈裟な!」
横山「お前のような疫病神はな。とっととこの町から出てけ」
男 「いえ、ぜひこの町に住みたいんです」
横山「そうか?どうしてもこの町に住みたいのか?」
男 「ハイ、ぜひ住みたいです」
横山「だがこの町を普通の町だと思うなよ。うちの町では、既に灰皿、ライター狩りが行われてもう町には、一個の灰皿もない。タバコの自販器はあるが、金を入れてどのボタンを押しても外れと言う紙切れが出て、金は戻ってこない」
男 「そんなバカな!」
横山「うるさい。それからこの町では“一服飲みましょう”と言うのは二人で薬を飲むことなんだ」
男 「えっ、二人で薬を?」
横山「そうだ。それからな。この町で“すってもいいですか?”と言うのは大根おろしのことだ」
男 「えっ、すってもいいですかは、大根おろし?」
横山「そうだ。どうしてもこの町に住みたいのなら、これだ!この禁煙宣誓書にサインするしかないんだ!さあ、署名しろ!」
男 「いや、絶対禁煙しません」
横山「引越しも禁煙もどっちもいやだ?じゃ、恐怖の禁太郎侍の登場になるがいいんだな?」
男 「えっ、禁太郎侍?」
横山「そうだ。町長がそう言われてろ。待ってろ。(電話して)あっ、町長、緊急事態です。絶対タバコをやめないと言い張る者が引越して来ました。直ぐに・・ハイ。今、来るから待ってろ・・、あっ町長!」
町長「ド〜〜ン!キ、キ、キ、キ、キンエ〜〜ン!ケムから産まれた禁太郎」
男 「なんか変な奴が出てきたぞ」
町長「いいか、私がこの町の町長、禁煙太郎だ」
男 「禁煙太郎?スゴイ名前ですね?」
町長「私は去年町長選で“喫煙者の首を吊ろう!”と言うスローガンで当選した」
男 「よくそれで当選しましたねえ」
町長「うるさい。いいか、私はかってヘビースモーカーだったが、それがなぜ、禁煙者になったか?それはな。私はとても良い行いをして、ご褒美として7年間刑務所に入った」
男 「ご褒美じゃない。刑罰ですよ」
町長「それは解釈の違いだ。その 7年間の刑務所は禁煙暮らし。周りに喫煙者が一人もいない。いやあ、夢のようなクリーンで静かな禁煙生活だった。あの刑務所暮らしこそ、我が心の理想郷」
男 「変な人だな。じゃ、刑務所を出て町長に?」
町長「そうだ。元々おれは山下組って平凡で善良なヤクザの組長だったんだ」
男 「平凡で善良な組長?じゃ組長さんが町長さんになったんですか?」
町長「そうだ、組長も町長も・・ヘヘッ、同じだ」
男 「いえ、大違いですよ」
町長「それで私は出所してから、うちの組を NPO法人山下健康組と名前を変え社会のお役に立とうと健康サプリメントで高純度のシャブを販売している」
男 「シャブは、サプリじゃないですよ」
町長「選挙に当選し、以来禁煙町造りを進めてきた。喫煙はいかん。町には美しい桜がある。その桜がもしタバコで肺がんになったらどうする?」
男 「なんで、桜が肺がんになるんですか?」
町長「とにかく全町挙げての禁煙運動だ。町の中でも標語を見たろう?“こそ泥、痴漢は許すけど、タバコだけは許しません”って」
男 「そりゃアベコベですよ」
町長「まあ、こうした禁煙運動の成果で今や喫煙者はゼロだ!」
男 「だけど、どうして喫煙者がゼロになったんですか?」
町長「この町の禁煙条例は特に厳しいんだ。うちの町では、タバコを 1本吸うと指を1本詰めるんだ」
男 「えっ、タバコ 1本で指詰める?」
町長「そうだ。 1本に付き指1本よ。10本タバコを吸うと両手の指がなくなってタバコが持てなくなる。ハハハッ、一石ニ鳥だ」
男 「そんなひどいコトしていいんですか?」
町長「いいに決まってんだろ。町長といやあ、親分も同然、町民といやあ、子分も同然だ。町民の指を詰めるのは町長の努めだ」
男 「この町はどう言うシステムなんですか?」
町長「それより、どうだ、これでタバコをやめる気になったろ?」
男 「ふん、ショートホ -プ・ユーザーは、みんな頑固で強情なんですよ。もう意地でもやめません」
町長「なに意地でもやめない。おい、お前、これを見ろ」
男 「あれ、なんです?この鎖の付いた鉄の玉は?」
町長「うちの町では喫煙者は足かせを付ける」
男 「えっ、喫煙者は足かせ?」
町長「そうだ。更にこの煙り探知機と温度センサーも付けることになってる。これでどこでタバコを吸おうと必ず見つけ出し、ひっ捕えてやる」
男 「ふん、そんなもの取り付けたって。直ぐ外しますよ!」
町長「ふふふっ、甘い。取り付けるんじゃなく体に埋め込む」
男 「埋め込む?」
町長「そうだ。更に喫煙者には、おでこに禁煙マークの焼印を付ける」
男 「えっ、禁煙マークの焼印?」
町長「もしおデコの禁煙マークが 3つになったらタバコ1カートンプレゼント」
男 「いりませんよ。そんなもの」
町長「おい、横山、こいつを押さえつけろ。さあ、焼印を付けてやる。このガスバーナーをシュー!さあ、真っ赤に熱して」
----------(短縮バージョン・寄席用・・ここで切る時1)--------------
男 「じゃ私も町長のアゴをこのライターでボ〜〜〜ッ!」
町長「アチチチッ、この野郎。もう怒ったぞ。お前だけは許さねえ。痛めつけてやる。おい喫煙課の横山。外に出ろ・・お前も公務員だ、市民を暴行するとこを見るとまずいだろ?」
横山「は、はい、そうです。じゃ、町長、もうウンと酷い目に遭わせてやって下さいね」
町長「分かってる。外へ出てろ!ガシャ、さあ、鍵も掛けたぞ。この野郎、もうイライラしてきたぞ。もう我慢の限界だ!いいな」
男 「な、な、なんです。なにをするんです?」
町長「おい、こら〜っ!覚悟ができてるだろうな」
男 「はい!なんでしょ?」
町長 「もう我慢できん。頼むから、タバコを 1本くれ!」(これが短縮バージョンのサゲ)
-----------------(以下・・ラストまでバージョン)-------------------
男 「畜生、なにをするんだ。パパ、助けて、パパ〜〜ッ!」
町長「なにが、パパだあ。いい歳をして・・あっ、なんだ、あの足音は?」
ズシン、モクモク、ズシン、ズシン、モクモク!
町長「なんだ、あのモクモクと言う音は?」
横山「町長、大変です。うちの庁舎に突然、全身に火の付いたタバコを数百本付けて、両手に 30本ずつタバコを吸いながら煙だらけのヘンなもくもく親父が入ってきました」
町長「なんだその、ヘンなモクモク親父って?どんな奴だ?」
横山「煙りで良く分かりません。ドンドンこっちにやってきます」
モク「ズシン、ズシン、モクモク、ぶわぶわ〜〜っ」
町長「あいつだあ、おい、このクリーンな庁舎にモクモク親父を入れるな。止めろ〜っ」
職員「こらあ、ワ〜ア、く、くるしい。バタバタバタ」
横山「町長、大変です。職員がパタパタ倒れてます」
モク「ズシン、ズシン、息子よ〜っ。どこだ〜あ、モクモクモク」
男 「パパ〜ッ、ここだ!ここだよ〜っ」
モク「おう、息子よ。無事だったか、これで安心してタバコ吸える!もくもくもくもく」
町長「おい、なんだ、このモクモクおやじは?」
男 「うちのパパは、インデイオの血を引くボリビア人でタバコの呪術師なんだ」
町長「じゃ、お前は日本人とボリビア人のハーフだったのか?」
男 「そう、父はボリビヤ人」
モク「おれ、タバコ呪術師、名前モクペコ・春風亭・キセール」
町長「なにが春風亭キセールだ、なんで突然が春風亭が出てくるだ」
モク「タバコ、神聖なものある。チコメコ!タバコは、神と交流する聖なる火、聖なる煙りある。チコメコ!聖なる煙り罰する者とても悪い。許さん!チコメコ!」
町長「何がチコメコ、悪いだ。見ろ!真っ白だった庁舎がお前のタバコの煙とニコチンで真っ黒のベトベトになったじゃないか?お前の方がよっぽど悪い」
モク「いや、町長絶対悪い!そうだ、タバコの神モクカトリポカにお願いして町長を懲らしめる。チコメコ、チコメコ、モクカトリポカ!チコメコ、チコメコ、モクカトリポカ!おい、お前も一緒にやれ!」
町長「だれがそんなことやるんだよ」
モク「チコメコ、チコメコ、モクカトリポカ!モクモク、ぼわ〜ッ」
町長「ゲボゲボゲボ〜ッ、あれ,急に痩せてきて、ヘナヘナあっ立ってらんない」
モク「お前、これで!末期ガン、寿命アト 3日」
町長「えっ、がんで後 3日ってそんなバカな。なんとか、おい、寿命を延ばしてよ。ねえ。もくちゃん」
モク「気安く呼ぶな。チコメコ、チコメコ!分かった。ではこのタバコを吸えば寿命を伸びる」
町長「じゃ、そのタバコをスパスパスパっ、なんか更に体力がなくなって来たぞ」
モク「あっ、いけない、吸ったのがショートホープだから命もショートになって寿命あと 1日」
町長「冗談じゃないよ。なんとか寿命を延ばしてくれ、頼む」
モク「そうか、チコメコチコメコ、じゃ、このロングピースを吸えば寿命もロングに伸びるかも?」
町長「なんだ、かもって、とにかく、ロングピースをスパスパスパッ!なんか背が高くなって来たぞ」
モク「あっ、身長はロングになったが、寿命はショートになって命アト 3時間」
町長「3時間?この野郎!なんとかしてくれ」
モク「そうだ、チコメコチコメコ!そうだ。このセーラムライトを吸えば、病気がライトで軽くなる」
町長「ホントかい、じゃ、セーラムライトを!スパスパスパ、どうだ?」
モク「いけない。ライトになったのは命の重さだ。命の重さゼロg!お前はもう死んでいる」
町長「えっ、死んじゃったのか?一生懸命吸ったのに、なんでこんなに早く死ぬんだよ」
モク「チコメコ!やっぱタバコは体に悪い!」
町長「馬鹿野郎、今頃言うな。皆さんもタバコの健康被害には充分注意しましょう。ほわ〜ん、さようなら」
*******E.N.D******
・・全部読んでくれてありがとう!どう?やっぱ駄目?それとも意外にイイ?
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