更新日07/06/21
円丈が心の中で書いた手紙

円丈の手紙

  この「円丈の手紙」とは円丈が実際出した手紙と言う意味ではない。常日頃からそんな風に考えてながら、でも実際は、それを手紙にしないし、あまり口に出して言わないこと。心の内で思ってることを「手紙」と言う形にしてここに書いて見た。

 円丈は、心の手紙を一体、どんな相手にどんなことを書くのだろうか?実際、このコーナーは今後も続くのか?実は自分でも良く分からないのだ。ではでは
 三遊亭 円 丈

◎手紙その3・・母ちゃんへ

◎手紙その2・・孫のゆうなちゃんへ

◎手紙その1・・お弟子さんたちけ


【画像:最近、料理にハマリ出し、味見する円丈・・・この時はカレー】



 「母ちゃんへの手紙」 ・・ごめんね!

 母ちゃん、怒ってるよね。いや、絶対母ちゃんは怒ってるよ。だって「なんだって母親の私への手紙が、三番目なの?」ねえ。きっと怒ってると思う。母ちゃん、ごめん!第一、母ちゃんなんて呼ぶのおれだって恥しいよ。小さい時からお母さんって呼べば、良かったのに・・。小さい時からず〜っと「お母ちゃん」か、「母ちゃん」だったんだ。だけどそれをうそっぽく「お母さん」なんて今更呼べないもんね。
 
  いやそんなことより、怒ってるよね。いや、絶対怒ってると思うよ。小さい頃からあんなに愛してくれたのに・・。俺って冷たいのかなあ。一体、母ちゃんが、愛してくれた何分の一、いや、何十本の一か、何百分の一しか、俺って母ちゃんのことを愛してなかった。・・・だからごめん!

  小さい頃、母ちゃんの愛は毎日、24時間まるでシャワーのように俺に降り注いでいたんだ。あの母ちゃんの無償の愛があったからこそ、ダメな俺が、今もこうして生きていけるんだと思う。
  こんなひ弱な俺が、こうして今、生きていけるのは、みんな母ちゃんの愛のお陰なんだ。分かってるんだ。もし母ちゃんの愛がなかったら、今頃、とっくにダメになっていたろうね。僕は引きこもっていたかも知れない。いや、それより、心の病気でとっくに自殺とか、入院していたろう。

 もちろん、母ちゃんは俺を盲目的に愛した訳じゃないさ。厳しいとこもあったさ。ダメな時は、真っ暗な押入れに放り込んだ。それでどんなに「母ちゃん、出してよ。ドンドン!」と叩いても決して出さなかった。でもどんな時でも俺は母の愛を信じていた。例えこの世かた太陽がでなくなっても母ちゃんが、おれを愛さなくなるなんてことはないんだ!」どんな瞬間も母の愛を疑ったことは一度もなかった。 いや、実際母ちゃんは、そうして死ぬまで愛してくれたんだ。
  【画像:母40代前半?円丈小学生の頃の母】

 その愛があったからこそ、 こんなひ弱でダメなおれが、めげないのは、すべて母ちゃんの愛のお陰なんだ。その母ちゃんの愛が、円丈の背骨に1本ズドーンと入ってるから、どんなにめげても、どんなに打ちひしがれても最後は、ピンと起き上がれるんだ。愛って肯定なのさ。どんなダメなおれも全て肯定してくれたから、こうして今も生きていられるんだ。だから、一体、どんなに感謝してもし足りないことなないのさ。

 分かってるんだ。だからごめんね。母ちゃん!きっと母ちゃんは死んでから「ほんとに世話の焼ける、手間の掛る子だったよ。ヤレヤレ!」なんて思っているんだろ?だから母ちゃん、ごめん!
 そう、今こうしているのは、母ちゃんのお陰なんだ!おれがしたことは、ただ母ちゃんが俺を愛していることを信じただけなんだ。そうなのさ。俺にしたことは「母ちゃんは、俺を愛してる」と信じた。それしかしてこなかったんだ。だからごめんよ。そして自分のなりたい道を生きたい道をただ進んだだけなのさ。母ちゃんとは関係なくひたすらその道生きてきただけなんだ。

  しかもそれが出来たのもこうしてここまで母ちゃんが、俺を愛してくれたからできただけなのに・・。だから、母ちゃん、ごめん!ホントにごめん。おれを生んで育ててくれて・・。もっと恩返しする子供だと良かったのにね。だから、ごめん。ひたすら、ごめん!最後にもう一度、ごめん。やっぱり、怒ってるよね・・。だから、ごめん!
  【画像:20代だった頃の母、明治40年生まれ・・明治の女は強い】


 「お弟子さんへの手紙」


 ごめん!
 きみたちのことを褒めなくて。大体、私ほど、教えるのが下手な人間はいないと思う。私自身、教えられなくても出来たことが、いくら教えても出来ないともう「バカーっ」と怒鳴ってしまう。ホントに教え方が下手だ。直ぐ感情的なってしまう。もっと褒めて教えればいいのに・・。ごめん。

 ごめん!
 何時もガミガミ小言ばかりいって、いや、ガミガミなんてものじゃない。もう怒り出すと止まらなくなってしまう。私が怒りだすとうちのろっきぃとミッキーは怖がって、別の部屋に逃げていく。だから中には震えだすお弟子さんもいる。自分でも怒り過ぎると思う。

 でも分かって欲しいんだ。
 怒ると止まらなくなるほど怒る。でも今までこの激しい性格をどれほど直そうとして七転八倒したことか?でもこれは私の持ってる最も本質的な性格で直らないんだ。この性格のため自分がまるで感情の暴れ馬の乗って生きてるようだ。
  まるで感情のロデオのようにして、 62 年間も生きて来てた。正直ヘトヘトに疲れ果ててしまうんだ。だからこの円丈キャラが私は大嫌いなんだ。

 でも安心して欲しい。
 どんなに怒っていても、その後ろで、それをただ黙って見ている私がいて
「なんでこんなに頭から湯気を出して怒っているんだ?」
  とどんな事態にも冷静にそれを見続けてるもうひとりの私がいる。
  だからどんな時でも怒ったこと以上のことは起こらないんだ。でも怒ることでとても迷惑を掛け申し訳ないと思っている。 でもホントになんとかなって欲しいからなんだ。

 もし君たちが、家で飼ってるろっきぃや、ミッキーのように犬だったら、とてもかわいがったろう。
だって犬は、犬のまんまでいい。だから怒らないでひたすら可愛がる。
 
でもお弟子さんは犬じゃない。噺家なんだ。なんとか落語でメシを食って欲しい。メシが食えたら、もっと上手くなって欲しい、そして有名になって欲しいと本気に望んでいるんだ。そしていつか円丈を越えて欲しいと思う。そのためにガミガミ言うんだ。

 全ては将来のためだと知って欲しいんだ。
 
 
君達は私を慕って弟子に来てくれてとてもうれしいと感謝している。だからこそ、なんとかなって欲しい。そして私が死ぬ時に「本当に俺は円丈の弟子のなって良かった」と思えるようになって欲しいと思う。そしてこれだけは本当だ。
  お弟子さんが、師匠に私に対しての想いより、何十倍も私のお弟子さんに対する想いの方が強い筈だ。その強すぎる想いが、ついガミガミと小言いってしまう。そしてその小言や、怒りは殆ど効果がないことも分かってる。だから余計に苛立ってついつい今日も小言をいってしまう。

 ごめん!
 もう少し私が売れていたら、君たちにもっと仕事を上げられたろうし、もう少し寄席でトリを取れたら、君達にもっと出番が与えれたのに・・。 力のない師匠でごめん。

  ただひとつだけ言っておこう。
 年寄りの愚痴として言っておこう。君達は、もっと感謝の気持ちと「ごめんなさい」と言う素直な気持ちが、あまりにも不足している。

 
この欲望だらけ、ストレスだらけ、複雑だらけの今の時代を生き抜くため、そして自分の正気を保つためにも感謝の気持ちと素直に謝れる気持ちが必要なんだ。

 
今、言い訳人間が多すぎる。誤魔化すことが上手くなることは、芸の上でもネタ作りでも人間面でも、世渡りにおいても、結局なんのプラスには働きはしない。いやプラスになることを妨げるマイナスなんだ。

 
 誤魔化しはその場逃れ。問題の先送りでしかない。結局言い訳で解決する問題などどこにもない。言い訳は君を堕落させるだけだ。
 
  苦しくても言い訳をしてはいけない。まず現状を認識して受け入れることだ。もし現状の自分をキチンと受け入れて認識できれば、ではどうすればいいのか?と言う解決方法が自ずから見つかるだろう。

言い訳とは人間を堕落させる悪魔なのさ。苦しい時に人間をもっと駄目な方に誘導するとんでもない悪魔さ!悪魔に耳を貸してはいけない。

  お弟子さんたちへ

                    ガミガミ師匠 えんじょう よ り


 【画像:去年(05年暮の大掃除)の一門風景】


 「孫のゆうなちゃんへの手紙」

 

かわいいゆうなちゃんへ

  ゆうなは、とてもシャイでたまにしか会えないのでおじいちゃんに殆どなつきません。

  お母さんの陰に隠れたりします。でも幼稚園に入るようになって、少しそれがなくなってきました。でもおじいちゃんになつかないとか、おじいちゃんちに来ないことなんて、
全然気にしていないよ。ただそのシャイなところを少し心配してるんだ。

 ゆうなは、少し大きくなったら自分の心に悲しみがあること気づくかもしれない。でもその時はおじいちゃんを思い出して欲しいんだ。  
おじいちゃんもまた心に悲しみを持って生きてきたんだよ。  だからそのことで取り乱したり、その悲しみを押し殺したり、憎んだりしちゃいけないよ。

 だってその悲しみは、自分の一部分なんだ。だからその悲しみをうんと可愛がって上げようね。するとゆうなは、周りの人にとても思いやりのある素晴らしい人間になれるよ。同時に折れ易そうに見えるけど、とても強い心のゆうなになれるんだ。


 それから心に悲しみを持った人間は、全てみんなと同じことができる訳じゃないんだよ。みんなには当たり前にそれが出来てもゆうなにはとても難しくて出来ないことがある。だけどそんなことで悩んじゃいけないよ。神様は、決してえこヒイキをしないんだ。

 逆にゆうなにしか出来ないことがあるんだよ。何なのか?それを一生懸命に探しなさい。それがゆうなの生涯の宝物になるんだからね。

 おじいちゃんは、ゆうなが大きくなってお金持ちになったり、偉くなったりすることなんて別に望んでいないよ。ただゆうなが、ゆうならしくいきいきと一生過してくれれば、おじいちゃんはとてもうれしいんだ。だってそれはゆうなが幸せだってことだからね。

 そして悔いを残しちゃダメだよ。悔いを残さないってことは、儲かるコトとか、得をするコトとは違うんだよ。悔いを残さないとは、自分の心に痛みを残さないってことなんだ。逆にお金は損するかも知れない。でもその損は結局損じゃないんだよ。お金が得しても心がずっと痛かったら、ちっとも得したことにならないだろ。そんなの幸せじゃないんだ。

 ゆうなが大きくなって自分のことで悩んだり、苦しんだりした時、これを読んで欲しいんだ。きっとゆうなならなにかが分かる筈だよ。おじいちゃんは、ゆうなとあまりお話しないかもしれないけど、ずっと静かにゆうなのこと見守っているからね。

 だから今はまだ心の栄養をちゅくちゅく吸って、すくすくと真っ直ぐにゆっくり、ゆっくり育ちなさい。

                                 ゆうなのおじいちゃんより





 

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