ごめん!
きみたちのことを褒めなくて。大体、私ほど、教えるのが下手な人間はいないと思う。私自身、教えられなくても出来たことが、いくら教えても出来ないともう「バカーっ」と怒鳴ってしまう。ホントに教え方が下手だ。直ぐ感情的なってしまう。もっと褒めて教えればいいのに・・。ごめん。
ごめん!
何時もガミガミ小言ばかりいって、いや、ガミガミなんてものじゃない。もう怒り出すと止まらなくなってしまう。私が怒りだすとうちのろっきぃとミッキーは怖がって、別の部屋に逃げていく。だから中には震えだすお弟子さんもいる。自分でも怒り過ぎると思う。
でも分かって欲しいんだ。
怒ると止まらなくなるほど怒る。でも今までこの激しい性格をどれほど直そうとして七転八倒したことか?でもこれは私の持ってる最も本質的な性格で直らないんだ。この性格のため自分がまるで感情の暴れ馬の乗って生きてるようだ。
まるで感情のロデオのようにして、 62 年間も生きて来てた。正直ヘトヘトに疲れ果ててしまうんだ。だからこの円丈キャラが私は大嫌いなんだ。
でも安心して欲しい。
どんなに怒っていても、その後ろで、それをただ黙って見ている私がいて
「なんでこんなに頭から湯気を出して怒っているんだ?」
とどんな事態にも冷静にそれを見続けてるもうひとりの私がいる。
だからどんな時でも怒ったこと以上のことは起こらないんだ。でも怒ることでとても迷惑を掛け申し訳ないと思っている。 でもホントになんとかなって欲しいからなんだ。
もし君たちが、家で飼ってるろっきぃや、ミッキーのように犬だったら、とてもかわいがったろう。
だって犬は、犬のまんまでいい。だから怒らないでひたすら可愛がる。
でもお弟子さんは犬じゃない。噺家なんだ。なんとか落語でメシを食って欲しい。メシが食えたら、もっと上手くなって欲しい、そして有名になって欲しいと本気に望んでいるんだ。そしていつか円丈を越えて欲しいと思う。そのためにガミガミ言うんだ。
全ては将来のためだと知って欲しいんだ。
君達は私を慕って弟子に来てくれてとてもうれしいと感謝している。だからこそ、なんとかなって欲しい。そして私が死ぬ時に「本当に俺は円丈の弟子のなって良かった」と思えるようになって欲しいと思う。そしてこれだけは本当だ。
お弟子さんが、師匠に私に対しての想いより、何十倍も私のお弟子さんに対する想いの方が強い筈だ。その強すぎる想いが、ついガミガミと小言いってしまう。そしてその小言や、怒りは殆ど効果がないことも分かってる。だから余計に苛立ってついつい今日も小言をいってしまう。
ごめん!
もう少し私が売れていたら、君たちにもっと仕事を上げられたろうし、もう少し寄席でトリを取れたら、君達にもっと出番が与えれたのに・・。 力のない師匠でごめん。
ただひとつだけ言っておこう。
年寄りの愚痴として言っておこう。君達は、もっと感謝の気持ちと「ごめんなさい」と言う素直な気持ちが、あまりにも不足している。
この欲望だらけ、ストレスだらけ、複雑だらけの今の時代を生き抜くため、そして自分の正気を保つためにも感謝の気持ちと素直に謝れる気持ちが必要なんだ。
今、言い訳人間が多すぎる。誤魔化すことが上手くなることは、芸の上でもネタ作りでも人間面でも、世渡りにおいても、結局なんのプラスには働きはしない。いやプラスになることを妨げるマイナスなんだ。
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