去年一年こんな新作をつくったぞ〜〜っ
そこで2000年の1年で一体、どんな作品を作り、どんな自己採点をしたのか。
これはその総決算だ。 三遊亭円丈

   【こんな落語、作りました】
 ◎名作寸前の『私犬』
 ◎軽〜く作ったら大好評、 人情噺『カコイでへ〜え』
 ◎まあ一応参考まで 『狛犬建立秘話』
 ◎リメイクしてもやっぱ受ける 『国際噺家戦略2000』
 ◎評価が別れる怪奇落語『ぞくぞく』
 ◎絶賛はないがそこそこ良い『あんたの聖家族』
 ◎後半さえ変えればバカ受けに『大人になったら』
 ◎美しく悲しい愛犬落語『薮ツバキの陰で』
 ◎大ヒット絶賛の嵐!人生落語『振り向けば』
           どれを?




名作寸前の『私犬』 ...1

2000年1月3日渋谷ジャンジャン、円丈独演会にて。

【あらすじ】
 酒癖が悪く、他の客に迷惑だと居酒屋を追い出され、男が、雑居ビルとビルの隙間で立ションに! その隙間に1頭の野良犬がいて向ったくるのでその犬を蹴飛ばすと動かなくなってしまい。そして良く考えるとその犬は、自分そっくりの性格。こいつはおれだ! そこでこの犬を抱えネオンの消えかかった夜の商店街を獣医を探して町を駆けずりまわる。

  犬の心臓の鼓動が、どんどん弱くなっていく、そしてやがて雪が降り出す、男は尚も駈けながら 「こいつは、おれなんだ。私が私を見捨てたら一体、だれが私を愛してくれるんだ。だからおれはお前を見捨てない。だってお前はおれなんだ。死なないでくれ〜〜っ」

  泣きながら夜の商店街を走る....。そして犬は死ぬ。せつなく悲しい落語の決定版。
【自己採点】...前半笑わせ不朽の名作に!
 まだ1度しかやってないネタ。前半の居酒屋シーンが、考えてた20%ほどしか笑いがなかった。ただ後半からラストでは完全に客を円丈悲しみワールドに引き込んだ。癒し落語の決定版。
  一年振りに台本を読み返したら。前半のギャグが陳腐でつまらん!さあ、今年こそ前半を軽く受けるように改作して。名作『私犬』に変身だ!!
【メタファーとしての『私犬』】
  この落語はもうひとつ、隠喩としての側面を持っている。 実はこの犬は、自己の心の中にある影の自分。 表面と影の自己の葛藤。
  これが犬との戦いの部分。そして犬の死は、影の自己が消え、その影を表面上の自分がもう一度吸収して新たなる自己を獲得する心理劇的な寓話が含んでいる。一応、作者円丈はそう言うこともダブらせながら作った。




軽い気持で作ったら大絶賛!
  人情噺『カコイで、へえ〜っ』..2

3月16日落語2000旗揚げ公演、プーク人形劇場: 制限時間10分のイベント落語会でやった。なんと円丈はこネタで優勝!あまりうれしくないけどね。

【あらすじ】
 誰でも知っている 小噺「空き地にカコイができたね」「へ〜〜え」 これを人情小噺にした。
  上品そうな老婦人と恰幅の良い紳士風の2人のホームレスの物語。 都心の一等地の大きなお屋敷に住んでいたいた老夫婦が、手広く事業をしていたが、バブルに手を染め、会社は倒産し、住んでいた家も追い出され、ふたりはホームレスになってしまう。

  婦人は、いろいろ理由をつけては、昔住んでいたいた屋敷を見に行こうとする、しかし男はいきたがらない。どれを無理矢理、だまして見に行くと、庭木と家は取り壊され間取りだけわかった。 いろんな思い出話、飼っていた犬を泣く泣く保健所につれていったことなど、そしてかって玄関脇だったところに白いチンチョウゲのつぼみが膨らみ始めていた。

「偉いものだ。主人がいなくなってもああして毎年、花を咲かせるおれもいつまでも過去にばかり拘っていては駄目だ。おれたちも一日も早くホームレスからぬけださないとなあ」
  そして花が咲く一週間後にくるとビル建設の本格工事が始まり、あのチンチョウゲは、どこにもなかった。
「ああ、わたしたちのたったひとつの希望。チンチョウゲもなくなってしまった。空き地にカコイができたね」
「へ〜〜〜〜っ....」
【自己採点】...良い作だが評価保留!
 10分の落語でギャグがひとつもない。夫婦の会話で淡々と物語りは進行していく。確かになるほど10分と言う短い時間にクオリティの高い悲しい噺にまとまっている。今読み返しても中々良い。小噺2部作にしようと考えている。まあ、評価はその時に。




 まあ一応参考まで
   『狛犬建立秘話』...3

2000年4月、綾瀬稲荷神社で狛犬建立記念で一席

【あらすじ】
 これは落語というより、狛犬建立にまつわる漫談程度のもの。狛犬を建立する3ヶ月ほど前から心が荒れ、しかも碌なことが起こらない。なんなんだ、これは?綾瀬稲荷の宮司さんに相談したら
「それは産みの苦しみかも知れません!」
  そうか、今石は削られ、だんだん狛犬の形になって来ている。狛犬が産みの苦しみの最中!てな話をおもしろおかしく。それ以後はやってない。またやる予定はない。
【自己採点】...あくまで参考として
...と言うほどでもない。狛犬建立秘話談義! 評価外!




リメイクしてもやっぱ受けるぞ!
       『国際噺家戦略2000』...4

5月18日 落語2000 プークにて

【あらすじ】
 もう20年以上前、純金が1g5000円まで上がった時に作った『国際噺家戦略』の2000年版。当時フジTV「花王名人劇場」でもオンエアした作品。
  なぜ金が高いのか?実は希少価値で世界中の金を一箇所の集めても縦横高さ10mの箱に収まってしまう。だから高い。しかし噺家はなんと縦横高さ2.5mの箱に収まるから64倍希少価値がある。ある日、潰れかかったヘッジファンドのタイガ−ファンドが、噺家の前座を5.6名やけくそで買った。そごうもうちもやっけくそだからと動いた。

  二ツ目を3人買う。こうして次々に買って行く内に噺家の値段は高騰をつづけ、ついにシカゴ先物商品市場のボ−ドに噺家が登場!三遊亭楽太郎半年物現物渡しとか、そうするうちに世界中のアナリスト、デイラ−、東京の寄席に集まってきた。
  さらにロシアが、池袋演芸場と平和条約を締結し、手中に収め、アメリカは演芸ホ−ルを、中国は陣塾末広亭を! 寄席を中心に緊張が高まりついにドカ〜〜ン!と東京がメチャクチャになったと言う荒唐無稽な噺。
【自己採点】 ...合格だ!

 現代に持ってきて『国際噺家戦略2000』として2回やったが2回ともかなり受けた!ただこの噺には、ふたつの欠点がある。 テーマが、経済、商品相場、軍事がテーマなので一部女性に蹴られる傾向がある。
  それと一般的にこの噺は 「じゃあ、講談はもっと数が少ないからどうなんだ?」 と理詰めに考え出すと笑えない。そこがこの噺の最大の欠点。それをまあ、落語のことなんだと許すとかなり笑える。 ナンセンスなストーリーが好きな人にはたまらないが、ガハハと笑う勇気のない人には向いてない。
  この噺は、客の心の広さを測るバロメーター。試されてるのは、私ではなくお客さん、アンタだよ。 作品とすれば、改作したとは言え20年経っても尚、そこそこ受ける。これは時代を超えられる本物と思う。名作まではともかく円丈作品を彩る1本であることには間違いない。合格!




円丈怪奇もの、評価が別れる
       怪奇落語『ぞくぞく』...5

8月18日 落語2000 プークにて

【あらすじ】..怪奇2連発
 【一本目】
パイロットになりたかってと言う男が、背中に激痛が走り、意識不明の重態、ミイラのように体が硬くなり、ついに死亡する。夜、その男の背中が割れ、中から巨大な蛾が1匹現れ、やがて夜の空にバサッ、バサッと消えていった..。
【2本目】
JRのホ−ムの端でぼんやりしてると
「そこ、そこです。そこから昨日飛び降りで自殺したんです」
「えっ?」
  それから地下鉄、私鉄でも 「そこ、そこですよ」 と言われ、やがてその駅員は同じ人物だと気がつく、しかしその男良く見るとドットで構成されていて。あるくとても足もバラバラバラッス〜〜ッと体が崩れながら歩いていく。
  そのあとをつける。ホ−ムの端の物置に入り、覗くとそこには、沢山の肉片の塊が息づいていた。それは、実は、浮かばれない飛び込み自殺者たちの霊が集まってひとりの人物に化けていた。 その霊の集合体は言う「私は、愛されたい...。この世に生きる全てものも死んだものも全てに愛は必要だ..。最後に少しホロッとする。
【自己採点】...賛否両論、自分でも?
 最初の1本は、昭和50年、日本ボールペンクラブを主宰した頃に作った怪奇ショートショートで未発表。ストーリー的には悪くないので少し変えて今回やって見た。それなりに気持ち悪がってくれた。もう1本は、最近自殺が多く。
  その鎮魂の意味もこめて作った。 正直、いろんな人に聞くとどうも評価が、真っ二つに分かれるようだ。自分でもはてさてどうしたものかと迷っている。
  多分、2-3年放り出しておいてから。改めて作品を読み返して評価を決めたい!今は静かに眠らせる! しかし今の時代、この怪奇物は、結構、受けるかもしれない。



絶賛はないがそこそこ良い
       『あんたの聖家族』...6

8月20日 落語2000 プークにて初演の後、2回の修正の後、今に至る。

【あらすじ】

 家族でお互いアンタのせいとののしり合う家族の話。中3のすこしグレかかった息子が、「おめえら、どれだけ自分の心を捨ててきたんだ。おまえらの捨てた心がこの箱にあるからこれをみて反省でもしろ!」 と出したのが心の玉!それぞれが、その玉を心に戻す。息子の健太が、冷たい人間になったと思ったら「健太の温かい心」を捨てていた。

  これで一家めでたしかと思ったら、もう一箱、心の玉があり、そこから「幸枝、ホンダのセ−ルスマンへの淡い恋心」「健二の浮気の思い出」「幸枝、洋一郎のゴハンにフケを入れる心」が出て来てと罵り合い。すると突然、2世帯住宅がフニャフニャフニャフニャ〜〜〜っと潰れてしまい。「おい、家!!なんでお前はチャンと建ってないんだ?」
すると家が
「アンタのせいだ!」

【自己採点】...標準的な作品だが、合格!

 これも一部、ホロッとまでは行かないが、ほのぼのさせられるところはあるが、基本的には人情噺ではなく落語になる。2回改作してなんとか標準的に受けるようになった。
  15才の少し非行少年と家族のテーマだが、2000年秋になって17才の殺人事件が、連続して起きてからはやってない。多分それを連想するので客は引きそうだ。 救いようのない事件は、落語さえ出来なくさせてしまう。
  円丈の中で標準的な作品。合格!




後半さえ変えればバカ受けに
         『大人になったら』....7

10月 落語2000 プークにて

【あらすじ】
 私立目黒大金持小学校の教師の話。私立で金があるので担任も2人制。大きくなったら何なりたいと聞くとピカチュ−とか、大金持ちのホ−ムレスとか、訳の分からないことを言うので四時間の授業を15分で終わってしまう。
  なんとかストレスを解消する方法はないものか?そこでおしゃぶりが登場!先生2人がおしゃぶりでドンドン幼児化していく..。
【自己採点】....今は不合格!
 前半と後半の高座で実際オシャブリをだして吸う部分が喧嘩してる。しかし少し新作を聞き込んだ人はあのオシャブリの部分が面白かったと言う。前半を生かして別な後半をつければ受けるのでは?改作の必要あり、今は不合格!





美しく悲しいが...。
 愛犬落語『薮ツバキの陰で』...8

12月25日 落語2000 プークにて:クリスマス特集にて

【あらすじ】
 バラバラな家族の元にある日、とんでもないドデカイ犬が、玄関を塞ぐ。あまり大きいので家族はムーミンだ、狸ライオンだと騒いだほど。元々座敷犬だったこの犬は、勝手に上がりみ、大騒ぎになる。保健所は3連休の休みだし、そのままズルズル、居候犬に!
  そして5日目。大事なバッグや、電子手帳を齧り、叱られてそのまま、窓からするり。いずこともなく姿を消した。家族はいなくなった淋しさを誰も言い出せずいたが、ついに1週間後に探す事なる。
  そして2週間後、ある公園にいると情報が入り、出かけていく。樹齢800年のオオイチョウの前に凛と座っていたが、実は自力で座る力なく寄っかかっていただけだった。 家族のを見ると一声天に「あぽ〜〜っ!」と吠えるとバタっ倒れ、コト切れた。
  母は、密かに食べやすいように水にふやかしたエサを!息子は内緒で買った特大の首輪を、父は極太の引き綱を持って来たが全ては無駄に...。

 黄金色の枯葉の上に犬とひざまずく3人の家族。聖なる大地から突き出た大イチョウの古木から枯れ葉が絶えることなく降ってきました。ひらひらとひらひらと全ての悲しみ包み込むように枯葉は降り積った。足立に悲しい冬がやってきました。
【自己採点】....美しい。とにかく合格だ!
奇麗すぎる。いや、奇麗事になり過ぎてるいるのかも知れない。しかしでもやはり美しい作品だ。しかし美しいコトが、不合格の理由にはならない。だから合格なのだ!
 【26才女性からのメールより】
  私は生の円丈さんを始めて見たのがつい最近なのですが、 (去年の年末の新作落語2000の時に始めて拝見しました) 本当に本当に素晴らしい噺でとても感動しました。 私も犬が大好きなので、あの日の犬を取り入れた噺は とても嬉しかったのと同時に泣きそうになりました。 古典落語で悲しい噺は何度か聞いた事あるのですが、 新作落語で悲しい噺を聞いたのは始めての経験だったので、 本当に本当に心に残っています。
  それとロッキーくんが見れたのがとてもとても嬉しくて 思わず客席なのに手を伸ばしてしまいました。思ったから書きます。

(円..うれしい。しかしこの噺。犬好きと普通の人では少し温度差がある。これをどう詰めるか?今後の課題だね)




久々の大ヒット?絶賛の嵐!
  人生落語『振り向けば』...9

2001年1月5日 落語21 プークにて、初演。絶賛!

【あらすじ】
 雨上がりの利根川にはうっすらともやがかかっていた。その利根川土手を私(円丈)は歩いていた。舗装された土手の中央には白いラインが1本引かれ、しかも等間隔に横の線が引かれ、そのに数字。54.55.56!そこで足が止った。
「私はここまで歩いて来たのか?...」
そして振り返る44のところに44才の挫折している白髪の円丈。27には夢を無限に広げる若きぬう生(円丈)の前名! 27、44、56才のそれぞれの自分とお互いののしり合う。
「27のお前が努力しなかったから。ダメなんだ!」
「44の円丈が悩み過ぎるから56のオレが老けて見える」
「やかましい、おれはそんなジジイにならない。円生になってる」
とか、そして10才の私。0才の私! そしてもう一度、振り返ると今度は未来が見えてきた..。果たしその先は.....?
【自己採点】 みんなが言いと言うんだから合格!
やる前にこの噺ほど評価がふたつの別れたのは珍しい。弟子3人に読ませたら。3人全員が面白い! だけど弟子ならヨイショで面白いと言うにきまってるだろう?なんて思う。あんたは甘い! 大体、駄作だと「う〜〜〜ん!」と唸る。少しいいのでも「ここはもう少し膨らませた方が」とキチンと意見を言う。
  そこで「そうかそうか、いやあ、ありがとう!」 とその部分を直す!しかしこの『振り向けば』は揃って良い!! そして私は、「いやあ、駄作じゃないかなあ!」 と反対意見。
  こう言うケースも珍しい。 そこでやったが、落語21でやった。笑いはそれほど多くはなかったが、仲間や関係者からは絶賛の嵐。清麿氏は「円丈落語のエポックメーキング的な落語です!」とか、もう大変! でも本当にそうなのか?今も尚、半信半疑なのだ。いずれにしろ。あと2.3回どこかでやって見よう。
  【東氏評】
  SF的なストーリーの中に、自らのこれまでの人生を、過去の自分という相手を得て 語りながら、今の自分を反省し、そして癒す。未来への不安と期待を、ギャグという 道具を使い軽く表現しながら、一瞬、現実世界へ自らだけではなく、観客までを引き 戻しておいて、最後、再び幻想の世界へ導き、またギャグで締め、最後は大爆笑で幕 を引く・・・・聞き終わった後、新世紀での円丈落語の可能性に打ち震えてしまった。
  どこかにありそうだけれど、決してどこにもない、今、その場で、円丈師匠のみが語 る事の出来る、20世紀の円丈落語を振返り、踏まえた上で、新たに導き出した新世 紀落語、といえるのではないだろうか。
(いやあ、そんなにほめられるとテレるなあ..しかしなんか欠点はないのかなあ....)



2000年の円丈落語について

 どうも今年は、癒し系の涙物が多かった。中でも犬が3本入ってる。やはり、王道のギャグもの。お笑いが足りない。反省!ただ作品を今の時代から求めると社会はあまりにも笑えない事が多すぎる。笑い飛ばすには、あまりもの重過ぎる。そう言う理由もあってつい癒し系になってしまった。

  それと正直、なにがおもしろいギャグなのか分からない。ギャグドラッカーになってる。ギャグは作れるのだが、受けるギャグが、全く分からない。だからいろんな傾向のギャグを入れて。うけたのがおもしろいみたいな。その辺のところから逃げたような部分がある。21世紀はギャグ落語を主に作ろうと固く決意をする円丈でありました。



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